被災地発 変革の取り組み
SmartTimes 社会起業大学理事長 田中勇一氏

コラム(ビジネス)
2020/3/6付
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「大好きな広田町から日本の良い未来に向けて変革を起こしたい」。NPO法人SET(岩手県陸前高田市)理事長の三井俊介さんは力強く、こう語る。東日本大震災の発生直後に仲間と立ち上げた復興支援学生団体SETが活動する広田町は、陸前高田市の中心部から車で30分ほど離れた小さな漁師町。震災では60人が犠牲になったという。

1992年住友銀行(現三井住友銀行)入社。新銀行東京とイオン銀行設立に参画後、キャリア支援のリソウルを設立。2010年に社会起業大学を設立。公益資本主義推進協議会副会長。

1992年住友銀行(現三井住友銀行)入社。新銀行東京とイオン銀行設立に参画後、キャリア支援のリソウルを設立。2010年に社会起業大学を設立。公益資本主義推進協議会副会長。

都内の大学に通っていた三井さんは何とか力になりたいと思い、支援の手が不足していた広田町に入って子供の学習支援や支援物資の仕分けなどをした。

活動の中で三井さんは、最も大切な事は被災からの復旧・復興にとどまらず、人口が減りつづけるこの町に人が訪れる仕組みをつくって地域経済を活性化することであると気づく。

そして2012年3月、大学卒業を機に広田町に移住。翌年にはSETをNPO法人化し、首都圏などの大学生が1週間ほど広田町に滞在し住民と新たな地域おこしを実践する「チェンジメーカー・スタディー・プログラム」を始めた。

すると参加者の中から広田町に移住する若者が出始める。地元企業の人手不足を解消するとともに、カフェをオープンするなど新しい事業も生まれた。

15年、三井さんは住民に推される形で市議会議員に立候補し、最年少でトップ当選する。今度は修学旅行を誘致し、中高生に民泊を体験してもらうプログラムも始めた。町ぐるみのプロジェクトが進み、今では人口約3千人の広田町で800人以上の住民が活動に参加。県外からもSNSなどを通じ農業や漁業、田舎暮らしに興味を持つ若者が年間2千人以上も訪れる。これらの活動が評価され、SETは住みよい地域社会づくりに取り組む団体などを表彰する「あしたのまち・くらしづくり活動賞」で、令和元年(19年)度の内閣総理大臣賞を受賞した。

三井さんは10年に開校した社会起業大学の記念すべき第1期生だ。当時は仲間とともにフットサルの試合の収益を一部カンボジアに寄付するソーシャルビジネスを考えていた。しかしスクール1期生と議論を繰り返すうちに、自分が本当にやるべきことは日本社会に直接貢献できる活動だと悟る。模索を続ける中で東日本大震災が東北を襲った。居ても立ってもいられず余震が続く被災地に赴くと、そこに自分が命を懸けてやるべきことがあった。

SETのメンバーは現在240人を超え、2児の父となった三井さんの周りには高い志をもった若者が集まる。復興支援を経て、日本が抱える過疎化地域対策で新たな社会づくりを提示した三井さんは、まさしく公益資本主義の一翼を担う社会起業家である。任期満了の市議会議員は後任に託し、ソーシャルビジネスに全精力を傾ける三井さんの活動が被災地にとどまらず、日本全体に変革を起こすことを期待したい。

[日経産業新聞2020年3月6日付]

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