浴室にカフェ 長旅の疲れはバスターミナルで癒やす

バスターミナルには、駅前の吹きさらしのイメージがある。しかし今、浴室やカフェまで備えたアメニティー設備満載の新顔が登場し始めた。これは空港以上ではないか。
2月中旬の週末、正午すぎ。記者(57)は東京・新宿から約1100キロメートルの夜行バスの旅を終え、JR博多駅近くのバスターミナルに到着した。旅行ベンチャーHEARTS(福岡市)が2018年12月に開業した「HEARTSバスステーション博多」だ。
マスク姿で15時間強バスに揺られ、心身ともヘロヘロ。宙を泳ぐような気分で中に入ると、目に入ったのは女性コンシェルジュがたたずむカウンターだ。

到着を告げ、2階のカプセルホテルの予約を確認。そのまま寝てしまいたい気分だが、チェックインは午後3時から。荷物を預け、同じ2階の広い浴室で一風呂浴びてさっぱりすることにした。
エスカレーターを上がると、1990年代のカフェバーのような空間。バスの中で何も食べていなかったことに気づき、博多名物の明太丼セットを注文。食事と風呂でようやく生気が戻ってきた。
長距離バスの居住性は格段に進化しているが、航空機や新幹線に速度や空間的な余裕ではかなわない。だからこそ乗客は、シャワーや風呂、食事、宿泊など乗車前後のホスピタリティーを求める。全国に約250ある(鉄道駅付属を除く)バスターミナルで、こうした要望に正面から応える施設は多くはない。

HEARTSの戸島匡宣社長は「長距離客がターミナルに何を求めているか聞き回った。特に風呂への要望が多く、何としても実現しようと考えた」。発着バースは4カ所と小規模だが、開業当時の1日の乗り入れ数7社54便は現在14社120便に増え、特に若者の利用が目立つ。外国人客はカプセルホテルに強い興味を示すという。
バスターミナルのホスピタリティーに注目が集まったのは、16年4月の「バスタ新宿」(東京・渋谷)の開業がきっかけだ。
バスタ新宿は記者が乗った夜行便の出発点。それまで19カ所に分散し、使いにくさで有名だった新宿地区のバス発着場を、1カ所にまとめた国土交通省の施設だ。
国道20号に隣接するビルの3~4階を占め、15のバースから1日に117社、1500便が発着する。JRの線路をまたぐ特殊構造のため「電車が止まる夜中の数時間しか工事ができず、00年に着工して完成は16年までかかった」(藤坂幸輔東京国道事務所副所長)。
シャワーはなく売店もコンビニと小さな土産物店だけで、HEARTSバスステーション博多に比べて見劣りするが、待合室の明るい雰囲気や電光掲示板が並ぶ施設のデザインは最新の空港に負けていない。
国交省は利用客の要望に積極的に応じる姿勢をみせている。女性の着替えや化粧の場として、開業時に8室しかなかった女性トイレを21室に拡充し、パウダーコーナーや着替え室も設けた。待合室のベンチも146席から344席に倍増させている。
国交省はバスターミナルと駅付近の再開発を絡めた「バスタプロジェクト」を東京・品川駅や神戸三宮駅でも進めている。新型コロナウイルスの危険が去れば、また大量のバス旅愛好者がターミナルにあふれるだろう。サービス向上に限度はないのだから、利用者のニーズにフルに応えるターミナルがもっと必要だ。バスの長旅から戻り、切実にそう思う。
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簡素な施設がほとんど

バスターミナルは「バスステーション」や「バスセンター」など様々な呼び方をされている。1959年にできた自動車ターミナル法上の定義は「事業用自動車を同時に2両以上停留させる施設」。バスと貨物自動車を同列に扱っている。
鉄道駅に付属した簡素な施設が多く、全貌は数え切れないが、ビルの一部を占めるなど一般にバスターミナルとして認識される施設は250カ所程度で、うち複数のバス会社が利用できる「一般バスターミナル」は24カ所にとどまる。バスタ新宿は国道20号付属の「駐車場」の扱いで、法的にはターミナルではないという。
(礒哲司)
[NIKKEIプラス1 2020年3月7日付]
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