留学生におせっかい全開
SmartTimes 久米繊維工業相談役 久米信行氏

2020/3/2付
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多摩大学で客員教授としてビジネスコミュニケーションを教えて3年目になる。ネットを駆使して多摩の絶景や名店、観光スポットなどを探し、インスタグラムで発信する授業だ。今年の受講生は10人が中国の天津財経大学と広東財経大学からの交換留学生だった。出席率も提出課題の質も高く、成績上位を独占した。リポートや質疑応答から学んだことは多かった。

1963年東京都墨田区生まれ。国産Tシャツメーカー久米繊維工業の三代目(現相談役)。明治大学商学部「ベンチャービジネス論」講師、多摩大学客員教授

1963年東京都墨田区生まれ。国産Tシャツメーカー久米繊維工業の三代目(現相談役)。明治大学商学部「ベンチャービジネス論」講師、多摩大学客員教授

まずは拙著「マンガ版すぐやる技術」を読んだ感想文が全くの想定外で驚いた。この本は墨田区の化粧品メーカー、松山油脂での実話を基にした自己啓発本だ。経理で働く内気な女性社員が営業や商品開発を命じられる。慣れない仕事に悩みながらもカフェで会った地元の達人らから教えを受け、成長する物語だ。

東京の下町で、互いに助け合いながら生きてきた私には自然な話だった。ところが中国人留学生の多くは不思議に感じたようだ。「なぜ見知らぬ人たちが、こんなに親切にしてくれるのかわからない」という。

多摩大学で教べんを取っていた日下公人先生から「日本は相互信頼社会、欧米は相互不信社会」と教わったことがある。厳しい歴史環境の下で個人主義、功利主義に染まったのか。この新発見で、私のおせっかいスイッチがオンになった。学生たちに「ここまでするか」と驚かれるほど親切にすることにしたのだ。

留学生からの質問は東京・京都・大阪・北海道以外に訪ねるべき場所や、おすすめの美術館、ラーメン店、神社仏閣まで幅広かった。講義ブログに毎回記載した回答は、日本の名所・名物図鑑のようになった。

そして留学生たちは異国で実体験を重ねようとしていた。毎回撮ってくる課題の写真は美しく、自ら選ぶ自由課題もゲームや夕焼け、イルミネーション、モノクロ写真など「みんな違ってみんな良い」のである。日本語も上手で、詩的な名文を書く学生もいた。

すなわち留学生の方が「知情意」の力に富んでいた。言葉のハンディがありながら出席や課題提出を欠かさず、知的好奇心に富んだ質問を重ね、感性を生かした表現にも優れていた。

私は三十数年前に慶応大学で中国の経済改革を学んだ。恩師は対外開放後初の招請留学生だった故平野絢子教授だ。当時、上海の百貨店には人民服しか売っていなかった。そんな貧しかった母国を知らない留学生が、今や日本人学生をしのぐ知性・感性で意欲的に学ぶ。恩師がこれを見たら、どう感じられるだろう。

せめて彼らを親日家にしたいと考え、ある美術展を紹介した。日本画の巨匠「後藤純男展」である。後藤氏は中国の風景を愛し、庶民の水辺の暮らしを描いて日本一の賞を受賞した。中国に学んだ空海ゆかりの日本の寺には後藤氏の黄山と桂林の美しい絵が飾られている。この事実を忘れないでほしいと伝えたのだ。

[日経産業新聞2020年3月2日付]

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