春秋

2020/2/27付
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埼玉県秩父市の中堅流通業、矢尾百貨店は、江戸中期に矢尾喜兵衛という近江商人が酒造業で創業した。「三方よし」の理念を掲げ、社会貢献の「世間よし」では天保の大飢饉(ききん)のときに、白米の安売りや施しをしたことで知られる。ただ、ほかにも興味深い事実がある。

▼債権者や出資者との関係である。初代は地元有力者から酒蔵や酒造道具を借り受け、年に15両を支払った。当時の従業員の給料が年2両というから少なくない額だ。事業の元手としてはそれまで勤めていた商家から半分の60両を出してもらい、創業から約100年後に完全に独立する際、矢尾家は8千両を還元したという。

▼主家への多額の支払いは恩義を感じてであろうか。そうしたプレミアム(上乗せ幅)を含め支えてくれる人たちにきっちり報いるには、利益がないと始まらない。矢尾家は小間物や古着なども扱い、「牛のよだれ」のごとく、細く長く続く商いを大切にしてきたと「矢尾二五〇年史」は記す。コツコツ利益をあげたわけだ。

▼環境や社会にどれだけ貢献しているかが企業をみる重要な指標になり、売り手、買い手、世間を満足させる三方よしの考え方も再評価されている。だがステークホルダー(利害関係者)重視の経営にあたり、近江商人が収益を追い求めてきたことを忘れてはなるまい。飢饉のときの施米も、利益をあげていればこそだった。

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