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食品ロス削減 ビジネスで挑む 「売れ残りを安く」SDGsが後押し

Earth新潮流 日経ESG編集部 半沢智

「いらっしゃいませ。アプリをご利用のお客様ですね」。コンビニエンスストア「生活彩家」の店員が、慣れた対応で接客する。筆者のスマートフォンには、この店舗で販売期限を迎えた商品が表示されている。いずれも「50%OFF」だ。パンを複数選んで、店舗に用意されたQRコードを読み込むと、認証が完了した。店員がレジの後ろの箱からパンを取り出す。料金を支払うと購入は完了だ。受け取ったレシートには、確かに「割引額50%」と記載されていた。

◎ ◎ ◎

このスマホアプリは、みなとく(東京・新宿)が開発・運用する食品ロス削減アプリ「No Food Loss」だ。同社社長の沖杉大地氏が会社を立ち上げたのは2017年。起業を後押ししたのが、国連のSDGs(持続可能な開発目標)だ。「SDGsが食品ロス削減ビジネスに大義名分を与えてくれた。SDGsがなかったら起業しなかった」と語る。

まだ食べられるのに捨てられる「食品ロス」は、国内で年間約643万トンに上る。SDGsの目標のひとつ「つくる責任・つかう責任」では、30年までに1人当たりの食料廃棄を半減すると掲げている。この社会課題の解決を目指し、社会起業家が、スマホやIT(情報技術)を駆使し、大企業では異なる方法で食品ロス削減に挑み始めた。

冒頭のみなとくは、19年2月にアプリの運用を開始した。現在、コンビニチェーンのポプラが運営する「ポプラ」「生活彩家」などの120店舗が導入している。都内の1店舗で試験的に導入したところ、「新規顧客が来るようになった」「ついで買いが増えて客単価が上がった」という声が上がり、約90店舗ある直営店に導入を拡大。現在は、フランチャイズの約400店舗でも参加希望を募っている。

1年間で売り上げた数は3万食を超えた。アプリによる売り上げの20%をみなとくが受け取る仕組みである。収益の一部をNPOを通じてアフリカの子供の給食支援として寄付している。

食品ロス問題で最も難しいのが、飲食店から出る食品ロスの削減である。小売店やスーパーなどが作るパンや弁当は、その日のうちの消費が求められる。こうした領域に挑む企業も現れた。

コークッキング(東京・港)は飲食店で売れ残った料理をスマホアプリで紹介する「TABETE」を提供中だ。スマホアプリを開くと、売れ残った料理がある店舗とメニューが表示される。価格はほぼ半額以下だ。メニューを受け取る時間を指定して、その時間に料理を受け取りに行く。料理が1つ売れるごとに、コークッキングに150円が入る仕組みである。

参考にしたのが、デンマーク発の「Too Good to Go」というサービスだ。スマホで売れ残った料理があるレストランを探して格安で買えるサービスで、SDGsの意識が高まっている欧州でサービスを拡大していた。「同じサービスが日本にない。すぐやろう」。川越一磨社長兼最高経営責任者(CEO)の決心は早かった。

川越社長は、「Too Good Too Go」が攻めあぐねているアジア地域への展開を視野に入れている。「25年までにアジアでナンバーワンの食品ロス削減プラットフォームをつくることが目標」である。

食品ロス削減ビジネスは、市場として立ち上がったばかりである。そんななか、業績を急拡大させているのがクラダシ(東京・品川)だ。メーカーが持つ余剰在庫や期限切れ間近の商品を消費者へ販売するウェブサイト「KURADASHI.jp」を運営している。

15年2月からサービスを開始し、現在、商品を提供する会員企業は約580社。商品を購入する会員数は8万人を超えた。19年6月期決算の売上高は約5億円で、黒字化を達成した。

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クラダシが扱う商品は、食品流通の商習慣「3分の1ルール」で廃棄される予定の商品だ。3分の1ルールは、食品の製造日から賞味期限までを3分割し、食品メーカーは製造日から3分の1の時点までに小売店に納入するという商習慣である。期限内に納入できなかったり、売れ残ったりした商品は廃棄される。クラダシでは、こうした商品を買い取り、通常価格の半額程度で販売する。

サービスを開始した15年2月はまだSDGsが採択される前だった。このときは、関藤竜也社長が食品メーカーを毎日のように訪問して協力を訴えたが、「100連敗だった」と振り返る。

風向きが変わったのは、18年の後半だ。食品メーカーの担当者に「SDGs対策はしていますか」と問いかけると、とんとん拍子で話がまとまるケースが多くなってきた。今では、かつて訪問して断られたメーカーから声がかかる。

食品ロス削減ビジネスの海外展開に向けて、いち早く動き出した企業もある。18年6月から「たべるーぷ」を運用するバリュードライバーズ(東京・港)だ。同社も飲食店などから出る食品ロスを消費者に販売するサービスを展開している。昨年12月に日本貿易振興機構(JETRO)の「SDGs型スタートアップ支援プログラム」に採択され、2月からマレーシアのサンウェイ地区で実証実験を始める。

サンウェイ地区は、地域全体でSDGsに取り組んでおり、持続可能な都市づくりの一環として、同社の食品ロス削減の仕組みを活用する予定だ。佐治祐二郎社長兼CEOは、「日本を中心としたアジア圏のビジネスとして育てたい」と話す。

SDGsが、社会課題の解決を目指すベンチャーを後押ししている。今後は、こうしたベンチャーと大企業による連携も進みそうだ。

[日経産業新聞2020年2月21日付]

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