スマートシューズでデータ取得 日常行動から新事業の芽
奔流eビジネス(アジャイルメディア・ネットワークアンバサダー 徳力基彦氏)
スマートフォンにスマートスピーカー、さらにはスマートテレビにスマートカーと、IoTや人工知能(AI)技術の進歩により従来の製品に「スマート」をつけた新しいカテゴリーの製品が様々な分野で開発されている。その中でも最近注目しているのが「スマートシューズ」だ。

スマートシューズという言葉をたどると、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に登場する自動で靴ひもを締めるスニーカーをナイキが実際に開発した際に、一部で呼び出した歴史があるようだ。そういう意味でまだSFの話と思う人は少なくないだろう。ただ、アシックスが今年、米ラスベガスのテクノロジー見本市「CES」に出展し、日本のメディアでも取り上げられるようになってきた。
先行するナイキは2016年の第1弾発売から技術を進化させ、昨年1月には「ナイキアダプトBB」という自動でフィット感を調整できるバスケットボールシューズの量産モデルを発売した。3月には最新版を発売する予定だ。
一方で、アシックスは「ORPHE」というスマートシューズを手掛けるノーニューフォークスタジオ(東京・千代田)と提携。走るだけでフォームを確認・分析できる靴「GLIDERIDE」を20年中に発売すると発表した。
センサー内蔵のモジュールを靴のソールに埋め込むことで、走るペースやストライドの長さはもちろん、着地の重心位置や接地時間など細かいデータを取れる。

日本で開催されたアシックスウォーキングの発表会で、筆者は実物を見た。興味深かったのは、靴からランニングやウオーキングのデータを取得できるようになれば、高齢者の生活習慣病の予防や精神状態の変化の測定などにも将来は役立つのではないかという議論だった。
実は、スニーカーのソールにセンサーを入れて走る速度を測るというアプローチは、06年にナイキが「Nike+」とiPodの連携で実施しており珍しくはない。「Nike+」が基本的には走った距離や速度の記録を軸としたのに対して、アシックスは細かい足の状態まで測定できるのが大きな違いだ。

技術の進歩により、スマートシューズは走る姿勢や足の接地の仕方まで細かく分析できるようになる。ケガをしにくい走り方をアドバイスしたり、高齢者に生活習慣病を予防する提案をしたりできる可能性があるわけだ。
さらにデータが大量に蓄積されれば、子どもの靴選びや運動習慣をつけるための助言に確実につながるだろう。社会全体として歩き方のデータを見て、転ぶ人が多い場所のデータを分析し、街の設計を変える未来もあり得ない話ではなくなってくる。
重要なのは、走り方や歩き方という誰もがしているが誰も本当のことは分かっていない行動自体が「データ」として蓄積されると、新しい可能性が広がるという点だろう。
IoTやビッグデータというとSFや未来の話で自分には関係ないと思うかもしれないが、アシックス同様に自社の製品のデータを深掘りして見直すと、全く新しい事業領域が見える分野は隠れているのではないだろうか。
[日経MJ2020年2月21日付]
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