伊集院静「ミチクサ先生」(157)
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その夜、夏目家の二人が引き揚げた後、今は鏡子の一家の住いになっている書記官長官舎の一室で、母のカツが鏡子に言った。
「あの人でおまえはよかったのかいね?」
鏡子はこくりとうなずいた。
「そりゃ、よかった。母さんも安心じゃ」
中根家は広島の人たちだった。
「顔のアバタは修整してあった」
「アバタ? 何の話じゃね」
「見合い写真には、顔にアバタはなかった」
「そう言えば、顔は少しそんなもんがあったね。それが嫌なの...
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