SDGs貢献 ナノテク再評価 車体軽量化や電子ごみ削減
Earth新潮流

コラム(ビジネス)
2020/2/14付
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官民が進める研究開発プロジェクトの意義や成果を国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の視点からチェックする機運が高まっている。例えばナノテクノロジー(超微細技術)は高機能の素材を作れるだけでなく、環境保全に貢献する点が評価され、主要国が再び注力し始めた。SDGsによる研究評価は今後の政策立案にも影響を及ぼしそうだ。

CNF電子ペーパーは電気を流すと図形が鮮明に表れ(右)、廃棄後はごみになりにくい(阪大・古賀准教授提供)

CNF電子ペーパーは電気を流すと図形が鮮明に表れ(右)、廃棄後はごみになりにくい(阪大・古賀准教授提供)

東京大学で2019年11月、異色のシンポジウムが開かれた。「ナノテクノロジーの社会実装がもたらすSDGsへの貢献」と題し、学際的な組織として同年4月に発足した未来ビジョン研究センターが主催した。

ナノテクはこの20年間に急速に進み、電子デバイスの高機能化や軽量化をもたらした。副次的な産物として環境面での貢献が語られることはあるが、正面からSDGsと関連づけて論じられる場は少ない。企画した同センターの佐々木一・准教授は「SDGsへの貢献を科学・社会的側面の両方からとらえたい」と意図を語った。

ナノテクはどんな点でSDGsに貢献しているのか。

※ ※ ※

シンポジウムでは冒頭、カーボンナノチューブ(ナノカーボン)で知られる信州大学の遠藤守信特別特任教授が登壇。19年のノーベル化学賞を受けた吉野彰・旭化成名誉フェローによるリチウムイオン電池の開発でナノテクが一役買ったエピソードを披露した。

リチウムイオン電池は00年代初頭から携帯電話に使われ始めたが、当初は容量が小さく充電1回で1日もたないことが課題だった。吉野氏は遠藤氏の知恵を借り電極素材を開発。これが電池の大容量化を導き、電気自動車にも使われ環境保全に役立つようになった。

植物成分を抽出して作る新素材、セルロースナノファイバー(CNF)も環境保全への貢献が期待されている。木材の主成分であるセルロースから極細の繊維を取り出し樹脂などに混ぜると、鋼鉄の5分の1と軽量ながら5倍の強度をもつ材料になる。

応用の本命とされるのが自動車の構造材だ。環境省がデンソーや京都大など産学を集め「ナノセルロース・ヴィークル計画」を始動させ、19年秋の東京モーターショーでは初の試作車を公開した。実用化の目標は40年とまだ先だが、車体の軽量化による二酸化炭素の排出削減のほか、プラスチック原料となる石油資源の消費抑制につながる。

CNFは別の応用も注目されている。電子デバイスの代替だ。

大阪大学産業科学研究所の古賀大尚准教授らが開発したのがCNFによる電子ペーパー。代表的な電子ペーパーは半導体の透明電極に粒子をはさんだ構造で、紙との共通点は薄いことくらいだ。これに対しチームは文字通り紙と同じ成分の電子ペーパーを試作した。

素材に透明なCNFを使ったのが秘訣。CNFは電気を通すと変色する「エレクトロクロミック(EC)」という性質がある。2枚のCNFシートと、イオン液体を染み込ませた白い紙をはさんで3層構造を作り、電気を流すと図形を描き出せるようにした。

古賀准教授はこの技術が「電子ごみ削減の有望な手段になる」とみる。

使用済みの電子機器はリサイクルされて銅や金など有用金属が回収されるが、基板などは埋め立て処分される。世界の廃棄量は年4400万トンを超え、海洋プラスチック問題の一因ともされる。「CNFでセンサーや電極を作れば廃棄しても自然に分解する。半導体がCNFに置き換われば電子ごみを減らせる」と古賀准教授は期待する。

製造段階での環境負荷を低減できることもナノテクの強みだ。岡山大学の仁科勇太研究教授は日本触媒と共同で、電池材料などに使われる酸化グラフェンの量産につながる技術を開発した。

酸化グラフェンはグラファイト(黒鉛)を酸化して作る。これまでは強い酸化剤を使う必要があり量産が難しかったが、仁科研究教授らは反応が安定して進むような合成法を考案。酸化剤の使用を減らした。

岡山大は全学でSDGsの達成を目標に掲げ、仁科研究教授らの研究を支援。研究チームは電池材料のほか潤滑剤、水浄化剤、触媒など様々な分野で環境負荷を低減する研究を進めている。

SDGsからのナノテク再評価は世界的な潮流だ。米国は00年にクリントン大統領(当時)が「国家ナノテクノロジー・イニシアチブ」を始動させ、政権交代後も一貫して取り組んできた。トランプ政権下で予算額は縮小されたものの、環境や健康への応用は重点分野と位置づけられる。

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IT(情報技術)分野も環境の視点からの評価が早くから取り入れられた。例えばスーパーコンピューターでは05年ごろから、米大学などが消費電力の少なさを評価するランキング「グリーン500」を提唱。計算速度だけでなく省エネ性が重要な指標となり、官民のスパコン戦略に影響を及ぼすようになった。

欧州でも素材やITだけでなく、生命科学や農業、都市工学などでSDGsの視点から研究の再評価が進む。

日本でも「SDGs達成のための科学技術イノベーション(STI for SDGs)」と名付け、研究評価に取り入れる動きが出始めた。SDGsはあくまでも持続可能な成長への手段であり、それ自体が金科玉条の目的ではないことを忘れずに、評価のほか政策立案でも積極的に活用したらどうか。

(編集委員 久保田啓介)

[日経産業新聞2020年2月14日付]

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