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春秋

去年の7月11日。仕事を早々に切り上げ、雨がそぼ降る東京・神宮球場にタクシーを飛ばした。プロ野球のヤクルト球団設立50周年を記念したOB戦を見逃すわけにはいかない。この負け癖がついたチームにも、黄金の1990年代があった。名監督ノムさんの手腕だ。

▼約2万8000人の観衆が最も沸いたのは、四回裏。「代打・野村克也」が告げられた。バットをつえにして、ベンチからおぼつかない足取りで打席に向かう。その腕を、まな弟子の古田敦也さんが支えた。初球は見送る。2球目は空振り。通算657本塁打の84歳のレジェンドに怖じ気づいたのか。相手は申告敬遠した。

▼この寸劇に大いに笑った。同時にしんみりした。ユニホームを着た最後の雄姿になるのか。目に焼き付けよう。多くのファンがそう感じていたはずだ。ノムさんの訃報に接し、歓声を浴びながらベンチに退く後ろ姿がよみがえった。卓越した理論を時にボヤキに変換し、南海、ヤクルト、阪神、楽天を率いた名伯楽だった。

▼一方、歴代最多の1563の負けを喫した。「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」の金言は失敗に学ぶ哲学だ。「野村再生工場」で、戦力外通告された選手を復活させた。人事の妙は企業経営にも通じるのだろう。「日経ビジネス」2月10日号の取材で人材育成について語っている。球界は至宝を失った。

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