春秋

2020/2/11付
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広島県呉市を訪れる人の多くは、JRの駅からまっすぐ「大和ミュージアム」(呉市海事歴史科学館)へと向かう。15年前に開館したこの施設は、これまでの入場者が1400万人を超すそうだ。無念の最期を遂げた戦艦大和の、10分の1の模型は迫力たっぷりである。

▼展示には、しかし戦争を美化するような雰囲気はない。むしろ軍都・呉の栄光と悲惨をしっかり見せることに気を配っていて、なかなか余韻が深いのが持ち味だろう。ただ残念なのは、みんなここだけが目当てだから市街地にはあまり足を延ばさないらしい。ご多分に漏れずシャッターの目立つ商店街がまばらな客を待つ。

▼戦艦大和を造った海軍工廠(こうしょう)の跡地にある日鉄日新製鋼の呉製鉄所が、2023年に閉鎖されるという。戦後まもなく、新たな産業都市への転換をさぐるなかで誕生した製鉄所はたくさんの雇用を生んできた。いまも呉を支える大黒柱だ。それが高炉2基を含めてまるごとなくなるのだから、地域を脅かす新たな苦難である。

▼鉄鋼メーカーはいま、新興国の台頭で激しい競争にさらされている。かつての「鉄冷え」時代にも持ちこたえた呉製鉄所が全面閉鎖とは、業界のただならぬ冷え方を示していよう。それでも、ここが勝負どころにほかなるまい。大和ミュージアムの展示は、海軍工廠の技術が戦後の基幹産業に生かされたことも教えている。

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