米図書館で無料映画配信 費用は施設負担、存続は?
先読みウェブワールド (瀧口範子氏)

コラム(ビジネス)
2020/2/9付
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NIKKEI MJ

米国ではネットフリックスやアマゾンプライムビデオ、フールー、アップルTV、ディズニープラスだけでなく、今や映画やテレビ番組のストリーミングが乱立している。昨年末、消費者擁護NPOの有名雑誌「コンシューマー・レポート」が主なサービスをリストアップすると、何と25件もあった。

カノピーにはドキュメンタリーや独立系の映画が充実している(カノピー提供)

カノピーにはドキュメンタリーや独立系の映画が充実している(カノピー提供)

料金やコンテンツから選びやすくする狙いだが、実はそこに出ていない良質の、しかも無料のサービスがある。カノピー(Kanopy)という、大学や公立図書館だけを対象としたサービスである。

大学や地元の公立図書館が契約を結べば、学生や教員、図書館のメンバーは家に居ながら映画を無料でストリーミングできる。「思慮あるエンターテインメント」をうたい、ドキュメンタリーや文学的、独立系、クラシックといった映画など3万点以上をそろえている。

無料のうえ、この手の映画が好きな人にはたまらない品ぞろえだろう。大学で映像研究者も利用しているという。有名な動画配信サービスでは最新のハリウッド映画や独自番組が中心。じっくり鑑賞する作品を見つけづらく、ありがたみはなおさらだ。

パソコンだけでなくスマートフォンやタブレットなどからでもアクセス可能だ。その意味では冒頭の人気サービスと変わらない。それでも知っている人は限られている。

ただ、無料の背景をよく調べてみると、ちょっと複雑な気持ちになった。大学や図書館が費用を負担しており、安くないのだ。価格体系は非公開だが大学側やその他の情報をまとめると、大学では30秒以上の鑑賞が3回あるとライセンス料が発生し、1作品あたり年間150ドル、3年なら350ドル。公立図書館では1作品1人当たりの鑑賞が2ドルで、利用状況を予測して最大限度額を設けているようだ。

カノピーは、大規模な配給が見込みにくい独立系の映画作家らを支援する意味もあるのだろう。得た収入の半分は制作者や配給会社に回るらしい。

たきぐち・のりこ 上智大外国語(ドイツ語)卒。雑誌社、米スタンフォード大客員研究員を経てフリージャーナリストに。米シリコンバレー在住。大阪府出身。

たきぐち・のりこ 上智大外国語(ドイツ語)卒。雑誌社、米スタンフォード大客員研究員を経てフリージャーナリストに。米シリコンバレー在住。大阪府出身。

そのため、大学や図書館が苦悩するケースも出ている。昨年はスタンフォード大学が「持続可能ではない」として一部作品にアクセスを限った。ニューヨーク市内の公立図書館3館は映画のストリーミングをやめ、書籍と電子書籍に集中すると決めた。

カノピーは2008年に大学へのDVD提供サービスとしてオーストラリアで始まり、ストリーミングサービスを米国や英国、香港、シンガポールなどの大学や公立図書館に拡大してきた。米国ではカノピー中止のニュースがある一方で、「うちの図書館にもカノピーのサービスが導入されました」と各地の図書館がさかんに告知している。

施設への課金は確かに「見るまでは無料」だが、利用者が一気見するご時世では、大学や図書館の負担は重くなる。筆者も利用したいのは山々だが、地元の小さな図書館の存続を願う身としては気がとがめて仕方がない。

利用者にお得感があり、制作者らにも収益の一部がまわり、同時に大学や公立図書館を存続させる――。そんなもっといいビジネスモデルはないものかと考えてしまう。

[日経MJ2020年2月9日付]

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