温暖化ガス削減 森林に注目 保護資金、排出量取引の活用探る
Earth新潮流  三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

2020/2/7付
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世界の温暖化ガス排出量の7%は森林開発など土地の利用変化によるもので、これは日本の総排出量の2倍以上に相当する。森林面積は減少の一途だが、違法伐採の規制強化や伝統的エネルギーから電力への転換、さらには植林によって、減少は緩やかになっている。しかし、人口増や生活向上による食料需要増、交通の低炭素化に使われるバイオ燃料や、海洋汚染対策からバイオプラスチックの需要が増加。木材など植物を調達するために森林開発が再加速するおそれもある。

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農地拡大のための森林伐採によって森林面積が急減している(ブラジル)

農地拡大のための森林伐採によって森林面積が急減している(ブラジル)

森林伐採が進むのはブラジル、インドネシア、ミャンマー、ナイジェリアなど途上国が中心だ。地元の人々の生活や国全体の経済開発という経済的理由があるからだ。森林を無秩序に開発しなくとも豊かな生活が得られるような環境を整えることなしには根本的な対策にならない。森林保護と経済開発のバランスは誰もが否定しないが、そのために必要なのは資金だ。途上国の取り組みを支援するために先進国からの援助も活用されている。しかし援助資金には限りがある。

新しい資金源、仕組みとして注目されていたのが排出量取引だ。地元の人々と一緒に非政府組織(NGO)などを巻き込んで生計改善を図りながら保護活動を進め、その二酸化炭素(CO2)放出削減効果を定量化し、排出クレジットを創出する。それを自らの排出量を相殺したいと考える国や企業などに売ることで活動資金を得る仕組みだ。京都議定書では植林によるCO2固定効果をクレジット化した。また森林開発の抑制や保護では日本が提唱する二国間クレジット(JCM)や民間スタンダードが先進的に取り組んできている。

大きな削減ポテンシャルに加え、生物多様性など地球環境への貢献、住民対応の改善などを考えれば十分な実績があってもよさそうだが、投資は限定的なのが現実だ。理由ははっきりしている。クレジットへの需要が限られていたからだ。

パリ協定によってこの状況に転機が訪れようとしている。このままの国内対策だけでは2030年目標を実現するのが難しいと考え、スイス、オランダ、スペイン、ノルウェーなどの政府がクレジット活用に向けて動き出した。

もう一つの注目は産業の動きだ。現在の各国の政策や規制はパリ協定の「2度目標」を実現するには十分とは言えない。そこで将来の規制強化を見越して、想定される2度目標にそった排出シナリオから独自の排出削減目標を設定し、低炭素化を先取りしようと考える企業が増えている。

昨年12月に開催されたCOP25では、森林開発の影響も注目された(スペイン・マドリード)=AP

昨年12月に開催されたCOP25では、森林開発の影響も注目された(スペイン・マドリード)=AP

しかし、低炭素技術の開発には時間がかかるし、エネルギー転換にも限界がある。そのギャップを埋めるためにクレジットを活用しようという考えだ。先行するのは石油ガス産業で、19年12月の第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)では欧州のシェルやBP、オーストラリアのウッドサイド、米国のシェブロンなどが森林に着目した「Natural Climate Solutions」という取り組みを発表したほどだ。森林保護によるクレジットも政府や企業が購入する可能性が出てきたのだ。

クレジットにするには信頼できる定量化手法が必要だ。森林対策では従来の省エネや再エネとは異なる内容を確認しなければならない。そもそも森林などがどのくらいのCO2相当量をためているか実測するのは困難だ。保護政策を政府が継続するのか、また政策が地元住民の理解を得ているか、などを確認する必要もある。計画通り進んでいるかのモニタリングも長期間となる。

リモートセンシング技術や統計分析などを活用した推計や、地元民が無秩序な森林開発に頼らなくても生活できるような生計手段の確保には国際的なNGOも参加するなどの工夫もなされている。まだまだ十分とは言えないが、走りながら課題を克服していくことになるだろう。

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しかし気になることもある。多くの人で集まったCOP25のイベントで、説明の途中で人が立ち上がって目や耳を塞ぐ行動にでたことがあった。「サイレントプロテスト」と呼ばれる行為だという。イベントが立ち見も出る人気だと知ったうえでの計画的な行動だった。反対活動では成功を収めたのかもしれないが、それで気候変動対策が進むわけではない。

実はこうした抗議活動は他でもあった。気候変動対策は経済、エネルギー、社会問題が複雑に絡み合っており、完璧な回答はない。どんな対策にもある負の影響を克服するためには、反対を主張するだけでなく、事実と科学的分析に基づいた対話が必要だろう。土地利用対策は難しいが、これなくして気候変動対策は進まない。

[日経産業新聞2020年2月7日付]

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