組織管理Y理論とX理論
新風シリコンバレー ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社長 ロッシェル・カップ氏
シリコンバレーの生みの親の一人であるヒューレット・パッカードの創立者、デビッド・パッカードは、ある時自身の持つ会社に関して以下のように述べた。「世の中には、軍隊的な構造を持つ組織が存在する。そういった組織では、トップの指示が段階的に下に流され、結果思考停止の指示待ち状態に嵌(はま)った一番下のレベルの者が、その指示を言われた通りに実行する。それはちょうど、我々が追い求めるヒューレット・パッカードの姿とは全く逆に位置する」

ベンチャー企業からグーグルやアップルのような大企業に共通するシリコンバレーの組織の一貫した特徴として、従業員は仕事に自主性を持ち、たとえ組織のトップに位置せずとも自分で様々な決断を下す権利がある。このような組織は「Y理論」に基づく組織だと言われている。一方、パッカード氏が避けようとしていた管理方法は、それとは対照的に「X理論」と呼ばれている。
X理論とY理論は、マサチューセッツ工科大学スローン経営学大学院のマネジメント学教授ダグラス・マグレガーが1960年代に提唱した、人材管理に関する二種類の異なるアプローチのことを指している。労働力となる人材に関してどのような前提を持っているかに基づき、マネジャーはX理論とY理論に分類される。シリコンバレーの企業はY理論に基づく企業の典型的な例として取り上げられることが多い。
X理論型の組織は、社員の一挙一動をコントロールするため多くの管理職を必要とし、組織が頭でっかちになる。
Y理論の前提は以下の通りである。従業員は仕事を嫌うことなく、自主的に自分にできる仕事を探す。目標を他人に設定されるより、自分で設定することを好む。責任回避はせず、逆に責任を持ちたいと考える。また、Y理論のマネジャーは参加型で権威を分散化したスタイルで管理する。
例えば、各社員の可能性を導き出そうとする。計画や問題解決さらには仕事のコントロールに社員を参加させる。コーチや進行役の役割を果たす。Y理論型の組織では下部に位置する社員でも意思決定に参加し、責任が任せられている。
またシリコンバレーの企業の成功の秘訣は、一番優秀な技術者などの専門職を引き寄せて定着させるその方法にある。技術者は会社に入ると、たくさんの仕事を任され、仲間とお互いにコラボレーションしながら、クリエイティブに自分の頭脳を使うことが期待されている。Y理論の管理はそのような働き方を奨励するので、シリコンバレー企業の成功の鍵の一つだと思われている。
日本人マネジャーのマネジメント方法を全般的に考えると、特に任務や責任を委任することを嫌い、規則やプロセス順守に頼る傾向が強いことから、大部分がX理論に属していると言える。それゆえ、シリコンバレー企業のようなイノベーションを実現したいと望む日本企業は、以上で述べた点をまず考え直す必要があるのではないだろうか。
[日経産業新聞2020年2月4日付]
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