若者を呼ぶ地方の魅力
SmartTimes 久米繊維工業相談役 久米信行氏

2020/1/29付
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今年も全国アパレルものづくりサミットの司会を務めた。今や繊維製品の国内自給率は3%を切り壊滅寸前だ。だが逆境下でも日本ならではの美意識と高品質で勝ち残り、世界に進出する企業もある。先進経営者や現場リーダーの事例発表を聴きに、全国から420人の関係者が集まった。

1963年東京都墨田区生まれ。国産Tシャツメーカー久米繊維工業の三代目(現相談役)。明治大学商学部「ベンチャービジネス論」講師、多摩大学客員教授

1963年東京都墨田区生まれ。国産Tシャツメーカー久米繊維工業の三代目(現相談役)。明治大学商学部「ベンチャービジネス論」講師、多摩大学客員教授

第7回の成果は、都会からあえて構造不況業種の地方企業に飛び込んだ若者の生の声を聴けたことだ。そこには人財不足に悩む地方企業や、若者移住に取り組む地方自治体のリーダー必聴のヒントがあった。

山形県寒河江市にある佐藤繊維が典型例だ。同社しか作れないニットは世界の高級ブランド御用達で、知る人ぞ知るオンリーワン企業。その魅力に気づき都会から就職する若者も多い。だが雪深い山形で一冬を越えられずに去る若者もいると佐藤正樹社長は嘆く。

しかし今回の発表者で、ニット部営業課課長の齋藤愛さんは違った。文化服装学院で勉強中に佐藤繊維のニットに出会い、布団ひとつで山形に行く。ここでしか作れないものをつくろうと志に燃えていた。

だが現実は違った。入社時は裁断・縫製からセット検品まで生産現場に回され、その後はネットショップの担当までさせられた。

私も大学で教えていて、最近の若者は夢と現実のギャップに弱く、下積みの意義を理解できないと感じている。今でこそ現場の経験の貴さが分かるという齋藤さんだが、次世代のリーダーは辛い時期に熱く語り掛ける必要があるだろう。

当初は自社ブランド製品の生産ロットが少ないことにも驚いたらしい。ベテラン経営者なら自社で企画・生産・販売を100%する高リスク高リターンの工場経営より、適度なОEМ生産を組み合わせた方が安全と考えるだろう。しかし若者は下請けイコール奴隷のように考え、夢がないと落胆するかもしれない。

幸い今では自社工場の7~8割が自社ブランドの生産だ。齋藤さんは夢をかなえ、刺しゅうの企画提案もできるようになったことに喜びを感じている。

だが地方の経営者や自治体リーダーに参考になるのはここからだ。齋藤さんは山形にいる理由として、仕事以外の趣味、みこしや詩吟の話を喜々として語ったのだ。何しろ都会から移住したので孤独で友達もいない。しかし、みこしの会に誘われて初めて地元のコミュニティーに受け入れられる。みこしを担ぐ歓喜と一体感で親友を増やし、地元を愛するようになる。

オンリーワン企業でも、経営者と仕事の魅力だけでは足りない。仕事以外の楽しい生活のため、地域ぐるみでコミュニティーに誘うことが大切だ。特別なものでなく、昔ながらの伝統行事でいい。むしろ地元の当たり前が都会の若者には魅力的なことも多い。職場以外に地域の仲間を増やすことが、若者定着の鍵だ。

[日経産業新聞2020年1月29日付]

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