「共有」が開く温かい世界
SmartTimes PwCコンサルティングパートナー 野口功一氏

2020/1/17付
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ここ数年、シェアハウスやライドシェアをはじめ、モノやサービスを共有する概念が新しいビジネスを生み出している。使っていないモノや人の空いている時間は「無駄」とされていたが、それがお金を生み出すのである。しかもテクノロジーによって個人間取引が容易になり、瞬く間に世界に広げることもできる。

イノベーションを生み出すための仕組み(プラットフォーム)づくりに従事。海外のスタートアップや大学、NPOとも連携してイノベーションの創出を戦略策定から支援している。

イノベーションを生み出すための仕組み(プラットフォーム)づくりに従事。海外のスタートアップや大学、NPOとも連携してイノベーションの創出を戦略策定から支援している。

従来の基本的な経済の考え方である「所有」を百八十度転換した考えで新しい価値が生み出される社会的インパクトの大きさは、皆さんも理解できるだろう。

さて、先日また新たな共有の概念に出合った。重度障がい者向けにロボットを活用してコミュニケーションができるようにして、生活も就労も可能にしようとするスタートアップ企業の取り組みだ。「分身ロボット」といわれ、遠く離れた場所でロボットが活動し、コントロールや対話の役割を障がい者が担う。身体が動かなくても操作できる仕組みで、受付やカフェの接客などはすでに実際の業務で実証もされている。

私もカフェで接客を体験したが、全く問題なく、障がい者が操作しているということも意識せずサービスを受けられた。障がい者にとっても、積極的に人と関わるように背中を押される効果がある。就業が困難と思われていても、どこにいても仕事ができるのだ。

障がい者が旅行をする体験も、まずは分身ロボットで疑似的に実現できる。誰かにロボットを旅行先に連れて行ってもらい、ロボットを通してそこの様子を見る。疑似的体験で感動したり、外に出る意識が高まったりすれば、今まで無理だと思っていた旅行にチャレンジしてみようという気になる。そして実際に旅行に行くようになるのだ。

そして私が究極の「共有」モデルと感じたものがある。それは分身ロボットを使って障害のある方同士がお互いを助け合う「ボディーシェアリング」という考えだ。例えば視覚に障害を持つ方の肩に分身ロボを乗せ、足の不自由な方が遠隔操作で分身ロボをコントロールして安全に道案内する。障がい者同士で自分が使える身体の一部をシェアして補い合うのである。

このようにそれぞれの身体機能をシェアすることで、お互いができなかった体験を可能にする。もちろんこのボディーシェアリングを可能にしているのはテクノロジーである。テクノロジーの力が弱者の孤独を解決していくのだ。

共有の考え方は、ビジネスの世界ではテクノロジーで従来の経済構造を破壊するインパクトを持つ。一方で、このボディーシェアリングのように人間にとって必要な「つながり」「感動」といったヒューマンタッチな部分にも今までにない体験を与え、大きな変化を及ぼせる。テクノロジーやデジタルという言葉には冷たい印象があるかもしれないが、温かい世界の構築を促すことも可能なのだ。

[日経産業新聞2020年1月17日付]

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