企業の長期戦略待ったなし 節目の国際交渉にらみ各国が政策
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

コラム(ビジネス)
2020/1/10付
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2019年を振り返ると気候変動問題が重要な経営課題となった転機の年だったと言える。「パリ協定」から4年。カーボンプライスによる排出規制や「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」など、CO2排出情報の開示が話題になった。また相次いだ気象災害によって、企業やサプライチェーンの被害リスクを再認識させることになった。

TCFDは気候変動が業績や財務に及ぼす影響の分析を企業に求めている(19年10月、東京都内で開かれたTCFDサミット)

TCFDは気候変動が業績や財務に及ぼす影響の分析を企業に求めている(19年10月、東京都内で開かれたTCFDサミット)

パリ協定が目指す「2度目標」と現実の政策とのギャップは大きい。各国とも排出規制の強化に乗り出すだろう。企業も長期戦略の見直しを急がなければならない。しかし、やみくもに低炭素化すれば良いというものではない。CO2排出を規制する仕組みや導入時期にマッチしたものでないと、有効なリスク対策にはならない。

また低炭素化を見込んで省エネや再エネ製品を市場に投入しても、タイミングが早すぎれば売れない。リスクに対応するための低炭素化戦略も、外部環境に合わなければ経営悪化につながり、社員の雇用にも不安が生じる。外部環境の変化の兆しをできるだけ正確に把握し、それを織り込んだ長期戦略を立てることが必要だ。

☆ ☆ ☆

最も大きな外部環境は政策だ。しかし各国の政策の変化を的確に予想するのは容易ではない。そこでヒントになるのが国際的な枠組みだ。気候変動枠組み条約やパリ協定をにらみながら各国の気候変動政策が決められることが多いからだ。

国際交渉は毎年行われるが、いくつか節目の年がある。例えば20年は、30年目標の強化と21世紀後半の「実質ゼロ」を目指した長期的な道筋についての議論が行われる。そして23年は「グローバルストックテイク」と呼ばれる、各国の政策と排出見通しの再評価、つまりは棚卸しが行われる。また25年は定期的な目標の見直しの年となる。

共通の事実認識がなければ議論はかみ合わない。活用されるのは、世界中から多くの科学者などが参加して協議している、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次報告書だ。22年4月に統合報告が発表されることになっている。中でも注目されるのは排出削減策のパートだ。

前回のIPCC報告では、技術のポテンシャルを示したが、経済分析が弱かったとの指摘があった。取りまとめ役のジム・スケア博士は経済分析を重視する考えを示しており、期待通りの内容であれば企業の長期戦略にも役に立ちそうだ。ただ各国間の利益の違いは大きく、理屈だけでは削減目標の強化は決まらないだろう。政治的な交渉と妥協が必要になる。

15年のパリ協定では、米国と中国の事前協議や。議長国フランスによる各国への入念な根回しがあった。「決める」という求心力と大国のリーダーシップが必要なのだ。

20年の米国大統領選挙はトランプ大統領の再選をかけた選挙となるが、次は24年11月だ。25年12月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)は、そのときの米大統領にとって、就任あるいは再選から1年が経過しており、安定して取り組める環境になっているだろう。

また中国は習近平(シー・ジンピン)国家主席の任期が23年3月だが、既に規則を改正しており、現政権が継続している可能性が高い。安定成長へのシフトや産業構造転換で排出量のピークを過ぎていることが明確になっている可能性が高い。

☆ ☆ ☆

貿易摩擦や安全保障での米中対立という不確実性はあるものの、23年と25年は国際交渉では重要な年であり、日本や各国はこうしたタイムラインを前提に政策を強化するだろう。企業の長期戦略策定は待ったなしだ。

しかし政策以外にも不確実性はある。技術イノベーションや市場はもちろん、昨年目立った金融機関からの「低炭素化プレッシャー」の今後の影響も不透明だ。こと長期となれば毎年の経済見通しのような「予測」は困難と言わざるを得ない。

だから重要な外部環境についていくつかの前提を置いたシナリオ分析が必要になる。昨年の「COP25」で国際エネルギー機関のビロル事務局長は、毎年発表する世界エネルギー報告の紹介にあたって、シナリオ分析と予測の違いを説明。間違った使い方をしないよう念を押していたのが印象的だった。難しそうに聞こえるかもしれないが、事業投資や経営分析ではシナリオ分析は普通に行われており、見方を変えれば気候変動問題も普通の経営課題になったということだ。

ビジネスモデルの転換や技術開発には時間がかかる。規制ができてからの対応では遅い。どのシナリオになっても柔軟に対応できる「強い企業」を目指すための経営戦略づくりは喫緊の課題だ。規制や技術、市場など多様な情報を集め、集めた情報を使いこなすための人材育成や体制作りも、企業にとって重要な経営課題になるだろう。

[日経産業新聞2020年1月10日付]

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