春秋
ひさしぶりにタイを訪れて時代の変化を実感したことのひとつは、紙幣のデザインである。バンコクの銀行窓口などで新たに手にしたお札は、なべてワチラロンコン国王の肖像を配していた。3年あまり前に亡くなったプミポン前国王のお札も、もちろん使えるのだが。
▼世界を見渡してみると、現役の指導者がお札の顔となっている国はさほど多くない。英国と英連邦諸国の一部、ブルネイ、ブータン、サウジアラビア、ヨルダンなど、おおむね君主制の国々である。いうまでもなく我が国では天皇陛下が登場するわけではない。それでも、紙幣のデザインには時代を象徴するところがある。
▼聖徳太子の登場する1万円札が発行されたのは1958年から80年代半ばまで。高度成長のイメージが強い。次いで登場した福沢諭吉は、失礼ながらバブル崩壊後の経済停滞の印象だろうか。気がつけば聖徳太子より長く1万円札の顔をつとめている。4年後に登場する渋沢栄一はまた、新たなイメージをまとうのだろう。
▼もっとも、電子決済や電子マネーの広がる勢いを踏まえると、紙のお札がいつまで時代を象徴していられるのだろう、とも思う。外国人旅行者にはいまひとつピンとこなかったが、バンコク暮らしの長い知人によればタイではキャッシュレス化が急速に進んでいる。「時代の変化はむしろそこに鮮明だよ」とのことである。
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