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春秋

「ツタンカーメン発掘記」(酒井傳(でん)六、熊田亨訳)のなかで、王墓の発見者のハワード・カーターは在りし日の少年王と若い王妃の日常に思いをはせている。彼の心を揺さぶったのは、玉座や厨子(ずし)などに描かれた、二人の愛情にあふれた暮らしを想像させる光景だった。

▼王妃が王の襟に香水をひと振りして身だしなみを正している場面、弓でカモを射る王に矢を王妃が手渡すところ。政務に疲れたようすの王の腕を王妃が支えている場景――。陰の権力者がいて短い治世は不安定だったともされるが、若い夫婦が醸し出す温かみは、3千年以上の時間の隔たりを超えて私たちに伝わってくる。

▼エジプトでは2020年、首都カイロ近郊に「大エジプト博物館」がオープンの予定だ。ツタンカーメンの副葬品もおよそ5千点が一堂に展示されるが、王夫妻の仲むつまじさを表す品々の価値は、黄金のひつぎやマスクと並べられても決して引けをとるまい。訪れた人たちの共感を呼ぶ、貴重な観光資源でもあるだろう。

▼日本も訪日客の心に響く地域の資源をもっと見せていきたい。「遠野物語」の伝承など、地域の暮らしには外国人を魅了する材料が多いはずだ。ツタンカーメンのひつぎには、ほのかに色をとどめた小さな花束が置かれていた。王妃がささげたとカーターは想像した。観光客を引き込むストーリー作りを日本も頑張りたい。

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