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政府入札「顧客本位」基準に

SmartTimes ネットイヤーグループ社長 石黒不二代氏

公共事業という言葉を聞いて私たちが連想するのは道路や橋などだが、最近はITシステムの構築も多い。公共事業がITとなると新たな疑問が浮かんでくる。ベンダー選定の目利きをできる人が政府にいるのか。入札が価格中心になっていないか。最近では各省庁でIT人材を中途採用していることは知っているが、それでも国のホームページは使いにくいと思う。

1994年にスタンフォード大学経営大学院を修了、シリコンバレーでコンサルティング会社を起業。2000年から現職。

専門家からみると米国政府に比べて「10周遅れ」だ。国民に向き合う気があるのに向き合えていない現実に、残念な思いをする。

最たるものがマイナンバーカード。日本政府が推進する「デジタルガバメント」実現のための重要ツールだが、普及率は9月時点の政府の公表によれば全人口の14%程度にとどまる。

その理由の一つにUX(顧客体験)がある。もちろん顧客とは国民で、サービスを提供しているのは政府だ。私はデジタルガバメント推進のための政府の委員だったし、自分自身もマイナンバーカード取得者だ。その体験から、政府に苦言を呈したことがある。

ある日マイナンバーカード取得のため、区役所に出向いた。すると聞かれたのが「電話予約をしていらっしゃいますか」。「区役所に出向くのに電話をする人などいないですよね」と返せば「ウェブにそういったことは案内しています。とにかく予約が必要なので、ここで予約して、後日出直してください」ときた。

「私は忙しいので、区役所に2日に渡って来るのは難しいです」と言うと「私たちも努力はしていて、週末の半日は区役所を開けるようにしています」。だから、どうだというのか。

最悪の顧客体験は、なぜ起きたのか。カードを作るシステムはよくできていて、何のストレスもなかった。後日に知ったが、入札の要件はシステムだけだったという。今までの入札制度を基準に考えれば当たり前だが、納得はしにくい。

もちろんマイナンバーカードの普及率が低い理由は、使う必然性がないところにある。個人情報が漏れるのが怖いという意見も多いそうだ。そもそもアプリ全盛の時代に、カード管理が体験としておかしい。体験設計の観点から落第だ。

そこで提案したい。政府のシステムプロジェクトの入札前には、必ずUXの入札を実施したらどうだろうか。各省庁はいま、躍起になってIT人材の確保に努めている。しかしUXの専門家はそれ以上に不足しており、ましてやマイナンバーカードのシステムを作る前にUXを考えようという発想は持てないだろう。

システムが良ければ広まるという単純なものではない。システム全体を広めるための体験設計が大事だ。そのためには企業と同じように政府も、顧客の気持ちになって考えることが必要なのだと思う。全ては顧客のために、全ては国民のためにということである。

[日経産業新聞2020年1月3日付]

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