春秋

2019/12/23付
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湾岸の埋め立て地の敷地に立つと、開業して数年の東京ディズニーランドが対岸にあった。園内で非日常の体験ができるよう、木々を植えてまわりの景色をさえぎっている。そのときに思ったそうだ。ここには東京湾の景観と一体になった幻想的な空間をつくろう、と。

▼建築家の谷口吉生さんが、2年前の本紙連載「私の履歴書」で「葛西臨海水族園」の設計をこう振り返っている。円盤状の建物は地中に埋めて、屋上の水盤に水を張った。すると視線の先にひろがる海面と水面がひと続きに見える。緑地にガラスのドームがそびえるさまは「海からの眺めが素晴らしい建築」とも評された。

▼1989年に完成したこの施設についての緊急シンポジウムが先日、開かれた。東京都は老朽化を理由に敷地内に新しい水族館を建てる予定という。役割がなくなれば、用済み施設は壊されるのではないか。心配顔の建築家や市民らが声をあげた。幼い娘を連れていった思い出の場所だ。改修して使い続けられないものか。

▼モナコ公国の海洋博物館は海洋学者でもあった大公が創設し、1世紀あまりかけて地中海をのぞむ風景に溶けこんだ。こなた日本では、戦後にできた建物が、一つまた一つと姿を消す。「人生100年をうたう時代に30歳で命を絶つの?」と建築史家の松隈洋さん。たとえ人間でなくとも壮年期の建物の「訃報」は悲しい。

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