春秋

2019/12/21付
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「凡(すべ)ての物が破壊されつつある様に見える。そうして凡ての物が又同時に建設されつつある様に見える」。とは夏目漱石の「三四郎」の一節だ。明治の末期に九州から上京した主人公は日々、その姿を変える東京の街の活気に大いに驚き、かつ少し気後れするのだった。

▼この年に上京した人も三四郎と同じような感慨を抱いたかもしれない。1964年。東海道新幹線が開業し、首都高速道路も整った。焦土からの復興を世界に発信する東京五輪の晴れ舞台である。64年度の国の一般会計予算案は3兆2554億3800万円。「みんなにいい予算や」とは、恒例だった数字の語呂合わせだ。

▼暮らしが豊かになる高揚感があった。当時の田中角栄蔵相は五輪のPRも兼ね、「見にこいよ」としゃれた。きのう閣議決定した2020年度の予算案は102兆6580億円。規模は30倍以上に膨張した。が、将来への希望はどうだろう。「増税で膨らんだのは税収ではなく、政治の要求だった」とは本紙の解説記事だ。

▼三四郎が朝日新聞に連載されたのは、明治41年(1908年)。その56年後が最初の東京五輪。そのまた56年後が来年の五輪だ。少子高齢化は急速に進む。成長か衰退か。難しい四つ辻に立つが、視界は不良だ。ゴロ合わせを楽しむ気分ではないが、1026580の並びに「十字路、いつ晴れる?」とぼやきたくもなる。

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