脱炭素へ目標明示が不可欠 海外有力企業の先進例に学ぶ
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

コラム(ビジネス)
2019/12/13付
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マドリードで開催中のCOP25=ロイター

マドリードで開催中のCOP25=ロイター

企業が二酸化炭素(CO2)削減事業や国際的な環境問題の取り組みへの参加、経営トップのコミットメントなどをメディアやシンポジウムなどで表明することが増えてきた。また使ったエネルギーやサプライチェーン全体の排出量の公開も当たり前になってきた。脱炭素のプレッシャーは強い。そんな中で、企業が次に取り組むべき課題について、英国企業のリポートにヒントがありそうだ。

世界の有力企業500社の4分の1近くが、再生可能エネルギー100%や科学的分析に基づく目標設定、そして炭素中立化に取り組んでいるというのだ。2015年以降に急増しているのはパリ協定の影響だろう。

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その中で注目したいのは「目標の設定」だ。科学的分析に基づく具体的な目標を掲げるという趣旨だが、この科学的分析は、いわゆる「2度目標」などを前提にしている。現実の政策が2度目標に追いついていない中で、企業が2度目標に沿った自社目標を設定するということは、「わが社は世界全体の削減のスピード以上に脱炭素を進めるので不良資産化することはありません」と主張しているとも言える。

第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)でのビジネス会議では740社を超える企業が目標設定に賛同していると紹介されており、次の取り組みの有力候補になりそうだ。

達成手段のめどがなければ目標も立てにくい。一番わかりやすい目標は再エネ100%だろう。自ら発電しなくとも再エネ証書などが利用可能な国は多く、また省エネに比べてもプレーアップ効果は大きいから、採用する企業は多い。

しかし、ほとんどの国で再エネ発電量は限られている。再エネ先進国と言われるドイツでも電力の40%にすぎない。エネルギー多消費産業の需要を賄えるほどの供給量もないし、またエネルギー産業が化石燃料をやめればエネルギー不足で経済はまひする。

こうした現実と理想のギャップ、個社の取り組みと経済全体のギャップで悩むのはエネルギー産業、エネルギー多消費産業だけではない。加入者の将来のために大事な資金を預かっている年金基金など投資家も同じだ。投資を通じて変革を促すことは社会的責務ではあるが、50年の理想形を早急に求めすぎて収益が低下したのでは本来の目的を果たしたと言えない。

ジレンマ解決で注目されるのが「移行」(トランジション)だ。英国国教会などの支援を受けているトランジション・パスウエイ・イニシアテイブはその一例だ。企業ごとに経済活動量とCO2排出量の比率(排出原単位)を計算。今後の排出原単位の引き下げ戦略を世界全体の2度目標達成に沿ったものかを評価する。具体的かつ高い目標を持たない企業の評価は低くなる。このアプローチのカギは原単位を計算するための「活動量」を何にするかだ。

最初に適用されたのは石油ガス産業だ。石油やガス、電力などを供給するから、それらをエネルギー量に換算し、活動量とする。顧客が欲しいのはエネルギーであり、低炭素化してもエネルギーだからサービスの本質を損なわずに低炭素化を追求できるし、また同業他社も同じ条件だから、企業側も受け入れやすい。

しかし、難しい産業もある。例えば航空会社。サービス向上のために長距離でも疲れないようゆったりした座席を提供した場合、1機当たりの輸送量は減る。輸送量を原単位にすれば評価は悪化する。航空機の省エネには限界があるし、燃料転換には経済と技術の両面で課題がある。本来のサービスを犠牲にしないとCO2削減はできず、トレードオフが生じる。

また厳密な排出原単位の計算には技術や原材料の違いなども考慮する必要があるから、完璧なものは簡単には作れない。しかしこうした部門別の評価手法は十数年前の米国主導のアジア太平洋パートナーシップでも、鉄やセメント、アルミなどで研究されている。これらのデータと経験の蓄積を活用すれば、産業と金融の双方が納得できるルールを作れるだろう。

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目標達成手段でも新しい動きが出てきている。例えば、石油ガス産業では、目標を実現するためには、石油からガスへのシフト、再エネ発電や二酸化炭素地下貯留(CCS)への投資など本業に近い取り組みに加えて、森林保護への投資など「オフセット」(相殺)も考えている。

単純に減らすだけだとビジネスは縮小するだけであり、働く人たちの士気も上がらず、取り組みは広がらない。成長を志向しながらCO2削減と脱炭素社会への移行を両輪で図ることが肝要だ。そうすれば雇用の不安も軽減し、企業も働く人も投資家も安心して取り組めるだろう。

[日経産業新聞2019年12月13日付]

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