スプラウトのストーリー
SmartTimes インターウォーズ社長 吉井信隆氏

2019/12/11付
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最近はどこのスーパーの野菜売り場でも「ブロッコリースプラウト」を見かける。スプラウトとは発芽直後の野菜のことだ。日本のスプラウトといえば「かいわれ大根」がある。過去には食中毒の感染源と疑われたことがあり、生産事業者は次々と倒産した。

1979年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。首都圏営業部長など経て95年にインキュベーション事業のインターウォーズを設立、社長に就く。日本ニュービジネス協議会連合会副会長。

1979年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。首都圏営業部長など経て95年にインキュベーション事業のインターウォーズを設立、社長に就く。日本ニュービジネス協議会連合会副会長。

国内シェア首位だった村上農園も危機を迎えたが、全社一丸となり、発芽栽培の技術を生かした新たな商品開発に取り組んだ。そして誕生したのがエンドウ豆の若菜「豆苗(とうみょう)」だ。安価で栄養豊富な野菜である豆苗はヒットし、倒産の危機を脱した。

村上農園は新たな商品の情報を求め、ブロッコリーのスプラウトが米国で注目されていることを知る。ブロッコリースプラウトに含まれるスルフォラファンという物質にがん予防効果があるとの研究結果が米国のジョンズ・ホプキンス大学から発表されたためだ。

日本での特許の利用権を得るためライセンスを持つポール・タラレー博士を訪ねるが、門前払いの日々が続いた。2年を超えて粘り強く交渉を続け、発芽野菜栽培のノウハウを持つことや、かいわれ大根の国内トップ企業であること、野菜を通じて人々の健康に役立ちたいという熱意を伝えた。これで独占的に生産販売する権利を獲得した。

村上農園はブロッコリースプラウトの販売にあたり「なんとなく体に良さそうな野菜」ではなく「がん予防のために摂る野菜」という機能性目的で野菜を買うという全く新しい消費パターンをつくり出した。

情報があふれるインターネット社会では、人の心を動かすブランドに育てることが肝要だ。村上農園は当時一般的でなかった英語のsproutから「スプラウト」に名称を変え、人に伝えたくなる戦略的ストーリーで注目を集めた。

食中毒騒動による極限状況から活路を求め、ブロッコリースプラウトのがん予防効果を知り、生産販売に至るストーリーをメディアやホームページで伝えて興味と関心を呼んだ。この物語が多くのメディアで取り上げられて健康志向の人々が共感し、生産が追いつかないほどのブームを起こした。「ブロッコリースーパースプラウト」コーナーがスーパーの野菜売り場に設けられ、スプラウトというカテゴリーを確立した。

日本の食料自給率は4割前後と、主要先進国で最低の水準にある。近年の度重なる災害もあり、野菜の価格高騰への危機感は強い。海外依存度が高いほど、国際情勢によって輸入制限が起こり、食料不足に陥るリスクは大きくなる。

食料問題はエネルギーや環境・医療課題とも結びついている。村上農園の植物工場は光や気温などの生育環境を制御し、災害や国際情勢に左右されずに安定した生産を実現している。通年変わらない価格で供給できる生産体制で、人々の健康に貢献している。

[日経産業新聞2019年12月11日付]

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