エネルギーミックス見直す時 気候リスク重視、日本経済に変化
Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

コラム(ビジネス)
2019/12/6付
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農林水産省は11月25日、10月の台風19号とその後大雨などによる農林水産関係の被害額が3000億円を超えたと発表した。9月の台風15号と合わせると被害額はさらに膨らむ。損害保険業界では、昨年、関西地方などを襲った台風21号で支払保険金額が初めて1兆円を突破し、今年度の台風などの自然災害による支払保険金額は、大手損害保険会社3社だけで合計1兆円を超えることが確実視されている。

三菱商事と中部電力が買収の優先交渉権を得たエネコは120万キロワットの再エネ資産を持つ

三菱商事と中部電力が買収の優先交渉権を得たエネコは120万キロワットの再エネ資産を持つ

その3日後の28日、日銀の黒田東彦総裁は都内の講演でこう述べた。

「近年、日本では、台風などの厳しい自然災害が増加しています。因果関係をはっきりさせることは容易ではありませんが、甚大な自然災害が増加している原因として、地球温暖化を指摘する人もいます。究極的には人命こそが重要ではあるものの、自然災害の影響としては、資産価格の下落や担保価値の毀損につながる可能性、関連するリスクが金融機関の大きな課題となる可能性もあります」。こんな言い方で、金融安定に関する新たな論点の一例として、気候関連リスクに初めて言及した。

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これまで、日本国内ではエネルギーミックスを語るとき、S(安全)+3E(エネルギー安定供給、経済性、環境保全)の観点から特定の電源や燃料源に過度に依存しない、バランスのとれた電力供給体制を構築することが重要と主張されてきた。しかし、気候変動へのブレーキを優先しなければ、停電は当たり前となり、被害による莫大な経済的負担が生じ、人の生命さえ脅かされる状況が容易に起こることが、ここ数年、目の前で明らかになってきた。

昨年6月、財務省国際局が関税・外国為替等審議会で配布した「経常収支の構造変化」と題された配布資料は「貿易立国から投資立国への転換が鮮明になってきている」ことを指摘しているが、今後のエネルギーミックスを考える際にも示唆に富んでいる。

わが国では近年、貿易収支の黒字拡大が輸出数量の伸び悩みで抑制される一方、第一次所得収支の黒字構造が安定化して、貿易収支の変動を吸収できる規模が定着してきている。サービス収支も外国人旅行者の急拡大などを背景に赤字幅の縮小を継続し、黒字転換も視野に入っている。

第一次所得収支とは耳慣れない言葉であるが、対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を指している。M&A(合併・買収)で取得した企業や新設した現地法人で、出資比率が10%以上の海外法人から収益である直接投資収益と、それ以外の金融取引で外国株式や外債に投資して得られた収益である証券投資収益がその「入り」の内容である。

かつてエネルギーミックスを論じるにあたり必ず主張されたのは以下の2点。(1)化石燃料への依存度を高めるとその輸入代金の増加を通じて巨額の国富が海外に流出してしまう、(2)エネルギー価格をこれ以上上昇させるとわが国の製造業はその生産拠点を海外に一層移転することになり雇用機会を大きく喪失させる――というものだった。いずれも日本経済に深刻なダメージをもたらすと警鐘が鳴らされた。

しかし現実には、国富の流出を補って余りある海外金融債権からの利子・配当金を稼得できる状況が生まれており、生産拠点の海外移転は確かに進んだが、国内に失業者があふれることにはならなかった。モノを作って海外に売って稼ぐのではなく、設立もしくは買収した現地法人や金融商品からの上がりで稼ぐという構造に、日本経済は着実に変化を遂げているのである。

これは「モノ作り」の重要性が低下したということではない。現地生産を育成、指導するのに日本の技術力は欠かせないからだ。ただ、一方で時代を先取りした資産にいち早く着目し、将来、紙切れになる資産をつかまされたり、出遅れて高値で資産をつかまされたりすることがないようにする能力もまた、鍵を握ることを意味している。

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11月末、三菱商事中部電力が、オランダのエネルギー会社エネコの買収へ優先交渉権を獲得したというニュースが世界を駆け巡った。買収額は最大41億ユーロ(日本円で約5000億円)に上るという。このエネルギー会社はオランダで第2位の顧客シェアを有するとともに、約120万キロワットの再生可能エネルギー資産を稼働させている。

消費者向け100%グリーン電力や「Science Based Targets(科学と整合した目標設定)」という「2度目標」に整合した目標設定でも知られている。このニュースは、日本のエネルギー業界ですら上がりで稼ぐという構造が本格的になってきたことを物語っている。

こうした現実を概観すると、わが国のエネルギーミックスも十年一日の発想から脱する時かもしれない。例えば、2030年の電源構成を、再エネ30%(第5次エネルギー基本計画では22~24%)、液化天然ガス(LNG)33%(同27%)、石炭19%(26%)、原子力15%(同20~22%)のように見直すべきだという意見も説得力を増していると考えられる。

[日経産業新聞2019年12月6日付]

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