デザイン経営と法改正
SmartTimes 東京農工大学教授 伊藤伸氏

コラム(ビジネス)
2019/12/2付
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近年、注目を集める企業戦略の概念に「デザイン経営」がある。デザインが製品の魅力に直結することは自動車や家電等で明白だが、デザイン経営はデザインを企業価値向上のための中枢的な資源として活用するところに踏み込んでいる。経済産業省が2018年にまとめた報告書では、デザインを重視する経営は高い競争力や成長に結び付くことが世界の常識になっていると指摘している。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

デザインを保護する知的財産は意匠権だが、18年の特許庁への出願件数は3万1406件。過去10年の出願件数は3万件前後で横ばい状態が続いている。この間、米国や中国は順調に意匠の出願件数を伸ばしている。こうした中、今年の意匠法改正ではデザイン経営を反映した保護の強化が盛り込まれた。来年4月の改正法施行後は、保護の対象がネットワークを通じて表示される画像やプロジェクター等で投影される画像に広がる。IoT時代を反映した大きな変化だ。

これまで不動産を理由に対象から外れていた建築物も加えられ、内装の意匠まで認められる。建築物の外観・内装デザインに関してはコメダ珈琲の店舗外観紛争が記憶に新しい。意匠権では外観が類似した店舗を排除できなかったため、コメダは不正競争防止法を根拠に使用差し止めの仮処分命令を東京地裁に申し立てた。欧米では建築物外観の意匠権を認めており、知的財産の国際協調の潮流に乗っている側面もある。

もう一つの変化の柱は、自ら出願した意匠に類似する意匠の登録を認める関連意匠制度の拡充である。出願した意匠は登録されると特許庁が公表する。公表に伴い新規性が失われるため、以降、類似した意匠は権利を得られない。出願から登録・公表までは平均8カ月程度であり、一つのコンセプトに基づき長期的に創作される意匠を保護できなかった。施行後は、基礎となる意匠の出願日から10年以内であれば関連意匠の出願が可能になる。

関連意匠の拡充が有効な場合として挙げられるのが復活したマツダの戦略である。同社はコンセプトカーのデザインを基盤にセダン、ハッチバック、多目的スポーツ車(SUV)、オープンまで全車種のデザインに一貫性を持たせ、ブランド力の向上に成功した。

もちろん意匠法の改正はデザイン経営の環境整備にすぎない。マツダの成功は、自動車の外観ばかりでなく設計思想と基盤技術も全車種で共通し、機能とデザインの両面を経営中枢がかじ取りした成果である。

イノベーション関連の実証研究に取り組む一橋大学の吉岡徹講師は「デザイン経営の実現には潜在的な需要に対する洞察、新たな価値を実現するための技術と感性の統合、あらゆるチャネルを通じて価値を顧客に伝える取り組みが求められる」と、想像力と創造力の重要性を指摘している。

[日経産業新聞2019年12月2日付]

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