ESG投資、社外取締役が一役 呼び込みにプロの視点生かす
Earth新潮流 日経ESG編集部 半沢智

コラム(ビジネス)
2019/11/29付
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投資家が投資判断の際に企業のESG(環境・社会・ガバナンス)を評価する「ESG投資」が勢いを強めている。世界持続可能投資連合(GSIA)によると、2018年の世界のESG投資額は約3344兆円で、16年から2年間で34%増加した。ESG投資で先行する欧州では、既に総投資額の約半分がESG投資になっている。

今、企業が投資を呼び込むには、ESGの取り組みを充実させ、その取り組みを投資家にアピールすることが不可欠だ。こうしたなか、社外取締役に投資のプロを迎えたり、株主に社外取締役に期待するESGの役割を明示したりする企業が出てきた。

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オリンパスは今年6月に、海外投資ファンドの米バリューアクト・キャピタルのデイビッド・ロバート・ヘイル氏を社外取締役に迎えた。バリューアクトは「物言う株主」(アクティビスト)で、オリンパス株を約5%保有する大株主でもある。日本企業が自らアクティビストを社外取締役として迎え入れるのは、異例だ。

富士通取締役会議長の阿部氏

富士通取締役会議長の阿部氏

オリンパスの竹内康雄社長は、「取締役会には多様性が欠かせない。バリューアクトが株主として入ってきて、株主の視点が重要だと思った」と語る。バリューアクトと対話を繰り返すうちに、ヘルスケア事業や米国でのビジネスの知見が豊富で、株主視点での助言が役に立つと感じたという。

何より、短期的な利益ではなく、長期的な視点で企業価値向上を目指すという姿勢で一致した。取締役会ではヘイル氏に、投資家としてのスタンスを交えた発言や助言を期待している。

株式市場は既に反応している。投資家はオリンパスのこの決断を好意的に受け止めた。ヘイル氏の就任発表前に800円台だった株価は、就任後に1200円弱をつけた。今年5月には上場来高値を更新するなど、勢いが続いている。

富士通は今年6月、取締役会議長に産業創成アドバイザリー代表取締役の阿部敦氏を据えた。これまで同社の取締役会議長は会長が務めることになっていたが、取締役会規則を変えて社外取締役が就けるようにした。

阿部氏は「富士通の経営戦略を投資家にもっと理解してもらう必要がある。情報開示を充実させれば、富士通の株価は2倍になる」と話す。

阿部氏はかつて、IT(情報技術)革命に沸く米国シリコンバレーを舞台に株式上場の主幹事やM&A(合併・買収)を手がける米投資銀行の花形バンカーだった。その後、JPモルガン・パートナーズ・アジア(現ユニタス・キャピタル)で投資ファンド事業を手がけるなど、「投資の助言者」と「投資の当事者」として現場を渡り歩いてきた。

阿部氏が富士通の社外取締役に就任すると、投資家から直接、対話の要望が来るようになった。富士通が17年に投資家向けに開催したESG説明会でも、阿部氏が説明役を買って出た。

このとき、投資家から質問が投げかけられた。「阿部氏の社外取締役としての立場は、投資家側のポジションに近いのか、それとも会社側のポジションに近いのか」。それに対して阿部氏は「当社はESGを重視している。ただ、私個人は株主の視点を大事にすべきだと思っている。私は、株主の視点から見たらこちらの決断がベターだというような発言をよくする」と答えた。こうして投資家の心をつかむ。

阿部氏は、現在も月に1、2回の頻度で海外投資家と対話をしており、対話で得た投資家の疑問を取締役会の場にぶつけている。例えば、「富士通は自己資本比率40%を目指しているが、投資家は資本コストが上昇することに懸念を抱いているようだ」といった具合だ。阿部氏の「投資家の目」が、取締役会の議論を引っ張る。

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荏原も今年、取締役会議長に社外取締役を据えた。ビジネス・ブレークスルー大学副学長の宇田左近氏である。宇田氏は11年から同社の社外取締役を務めており、3月に取締役会議長に就任した。

荏原取締役会議長の宇田氏

荏原取締役会議長の宇田氏

荏原の取締役は全11人で、そのうち社外取締役が7人を占める。同社は、社外取締役を含む取締役全員の「スキルマトリックス」を公表している。これは、取締役に求められる役割の「期待」を示したものである。期待する分野として「法務」「人事」「財務」などを挙げており、これらに加えて「環境」「社会」「内部統制・ガバナンス」というESGの3分野を掲げている。

このスキルマトリックスは、株主総会の招集通知などにも記載している。宇田氏は「社外取締役にはESGの長期的な視座が必要だという株主へのメッセージだ」と説明する。

荏原の取締役会は、以前はコンプライアンスや事業の進捗に関する議論が多かったが、最近は中長期的な企業価値向上の課題の議論に時間を費やすようになったという。今は、年明けに発表する予定の30年をターゲットとした長期経営計画と、それに基づいた3年間の中期経営計画について議論している最中だ。同社の前田東一会長は、「新たな経営戦略にESGやSDGs(持続可能な開発目標)の視点は必須。長期視点の議論をガンガンしている」と話す。

取締役会こそESG経営の推進の場だ。旺盛なESG投資の需要を取り込めるか。社外取締役が鍵を握る。

[日経産業新聞2019年11月29日付]

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