2030年の世界を妄想しよう 未来像から事業のタネ探せ
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
この連載もとうとう10周年を迎えた。10年前は日本でiPhoneが普及し始めた頃で、スマートフォンでの電子商取引(EC)やリアルな店頭でのスマホ活用が注目されるといった話を書いていたことを思い出す。

それから10年、スマホはしっかりと浸透し、今やロボットや人工知能(AI)、仮想現実(VR)などたくさんの技術が一度に花開きつつある。第4次産業革命とも呼ばれるような劇的な変化のまっただ中に突入している。
人口減少が始まった日本の多くの企業が、危機感とイノベーションを合言葉に新規事業や既存事業のデジタルトランスフォーメーションへの取り組みを始めている。だが、展開のタイミングは難しい。
例えば「車の自動運転レベル4」。実用に向けての技術開発はもう十分なところまできているが、公道でどのように実現するかのシナリオは混沌としている。まずは貨物トラックだけにするか、低速車にするか、特定のエリアに限定するかなど法的整備も含めて課題は多い。「ドローンを使った配送サービス」もそうだろう。「遺伝子検査からのパーソナライズされた料理サービス」も同じだ。
企業側から見れば黒字になるタイミングが意思決定の重要な目安になることが多く、大企業は3年スパンで考えることが多い。しかし、3年後にこうしたサービスが日本国内で黒字になるかと言われると、多くの人が判断に悩むだろう。ただ、もし10年後と言われたらどうだろう。どれも確実に実用化され十分ビジネスとして成立していると確信がもてる人が多いだろう。
現在のような状況では、このような「バックキャストアプローチ」と呼ばれる考え方がとても大事になる。今から10年後の2030年の日本市場を想像して、そこから現在を見た時に今何をすべきかと考える方法論である。
この連載が始まった2009年にはガラケーのビジネスがたくさん存在していた。企業は3年先の36カ月にわたるエクセルの表を作り、ガラケー利用者のなだらかな減少を計算すればまだやれると考えたかもしれない。しかし当時、スマホを全員が使っている10年後の世界を妄想した時には意思決定が大きく変わっていただろう。実際にそうした会社もあったに違いない。

今必要なのは2030年の世界を妄想することだ。それは一人ひとり自分が心から願う未来であることも大事だ。「SDGsが大事だってみんな言うから……」と考えるような未来では、すでに人ごととして流された未来になる。
日本の多くの街で移民が劇的に増えているだろう。小さい地方空港にはプライベートジェットがたくさん駐機し、おいしいフレンチレストランはアジアの金持ちによるクラウドファンディングだけでビジネスが成り立っているかもしれない。誰もが3つの会社の仕事をしながら2カ所以上に住むことも当たり前になり、移動のための交通費は定額になっているかも。週休3日の人も増えているだろう。
現在は工業化社会が終わり、新しい社会へと激変するワクワクを楽しめる時代と言える。この連載も多くの人々のワクワクを伝える場所として、次の10年を目指して頑張りたい。
[日経MJ2019年11月29日付]
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