春秋

春秋
2019/11/23付
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タイトルは「六月」。しかしこの詩はきょうの「勤労感謝の日」にぴったりだろう。「どこかに美しい村はないか/一日の仕事の終りには一杯の黒麦酒/鍬を立てかけ 籠を置き/男も女も大きなジョッキをかたむける」。茨木のり子さんが残した作品のひとつである。

▼ひたむきな労働と、おおらかな休息のすがすがしさを描いて間然するところがない。かつての新嘗祭(にいなめさい)は勤労の成果としての収穫を神に感謝した。戦後、これを受け継いだ勤労感謝の日はそれを生みだす人と行為への賛歌である。この詩のなかの村も、みんなが鍬を持ち、だれもが籠を背負い、わだかまりなく働く理想郷だ。

▼現実に目を移せば、かけ声だけはすっかり耳慣れた「働き方改革」の行方が見えぬ。長時間労働を追放する。女性やシニアの活躍を促す。多様性を重んじる。働く場所を柔軟にする。大いに結構だが、さて具体的にどうするか、いつまでに何を実現するのかは曖昧だ。形式は整えたものの、意識はどれほど変わったことか。

▼上司が帰るまでは部下も帰らない。以前はこうだった。昨今の朝型勤務では、上司が早く来るからもっと早く――となる。「どこかに美しい人と人との力はないか/同じ時代をともに生きる/したしさとおかしさとそうして怒りが/鋭い力となって たちあらわれる」。詩人のうたった共同体には遠いニッポン社会である。

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