春秋
史上最高の人工知能(AI)が稼働を始め、最初に質問する機会を得た人が尋ねた。「神はいますか」。AIは答えた。「はい。まさにいま神はいます」。そして――。米国の作家フレドリック・ブラウンの短編小説「回答」は、AIが人類を支配し始める瞬間を描く。
▼発表は60年以上も昔なので、言葉づかいはさすがに古びたところが多少ある。それでも、240足らずの英単語でつづられた物語はいまも新鮮だ。むしろ、作家の想像力に現実世界がついに追いついてきた印象である。いまやAIは社会に浸透し、日々の生活への影響を強めている。小説のように劇的な場面はないけれど。
▼脈拍などを測定する腕時計型端末のメーカーを、グーグルが21億ドルで買収すると発表した。アップルや華為技術(ファーウェイ)などが競い合うウエアラブル端末の市場に、検索サービスに強い巨人が本格参入する構図である。競争の激化でサービス向上や価格低下の効果を期待できるが、データ寡占を懸念する声もある。
▼わが身をかえりみると、もはやスマホなしでは生活も仕事も立ちゆかない。いずれウエアラブル端末も必需品か、と予感する。「すぐ運動してください」「3時間のうちにあと4000歩どうぞ」「今日はお酒を控えなさい」「タバコはいけません」。そんな指示をAIから受ける毎日が、さほど遠くないのかもしれない。
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