SDGs推進 カギは多様性 国・地域で異なる優先課題
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

コラム(ビジネス)
2019/11/15付
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環境や社会貢献などの会議にいけば、放射線状に赤、青、黄にカラフルに塗り分けられたドーナツ型のピンバッジを襟などに付けた人を見かけることが増えたのではないだろうか。国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」を推進するSDGsバッジだ。

背広の襟などにSDGsバッジを付けるビジネスパーソンも増えてきた

背広の襟などにSDGsバッジを付けるビジネスパーソンも増えてきた

社会貢献への取り組みやSDGs債発行など、企業活動でもSDGsが使われており、わざわざ説明しなくとも「SDGs」だけで伝わるほど普及してきた。

目標があれば達成を確認するのは当たり前だし、そのためには中間評価も行う。SDGsは教育や平等、気候変動など取り組むべき17の目標、各目標につきおおよそ10個・合計169のターゲット、それに232の指標がある。

経済協力開発機構(OECD)も目標の達成度合いを定量的に評価する手法を発表している。公開された統計データの中から各指標に関連するものを選び出し、それぞれに満点を決め、そこからどの程度離れているかを数値化した。

日本は、海洋資源、エネルギー、イノベーションなどで進んでおり、他方でジェンダー、平等、強靱(きょうじん)な都市では遅れている。

ただ、飢餓と食の安全保障が同じ「目標2」になっているため、飢餓では満点の日本も「目標2」では思ったほどの達成とはなっていない。注意が必要だが、色々活用できそうだ。図にすれば国際比較も簡単だ。

豊かな東南アジア諸国連合(ASEAN)作りのためにSDGSが活用できないかを、ASEAN各国、日本や欧州連合(EU)の経済学、経済政策、金融、経営学など多様な分野の専門家で検討した。OECDの評価手法による自己診断を基に議論したが、SDGsは政策や企業の長期成長戦略で活用できるというのが結論だった。他方、課題も指摘された。

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17の目標は誰も否定できない重要かつ普遍的なものだが、同時に達成するには難しい。だから優先課題を決める。しかし一人一人何を優先したいか異なるから、国民的な議論は重要なプロセスとして欠かせない。

例えば、日本は様々な分野の有識者を招いての議論を経て、国家戦略として健康・長寿、技術イノベーション、平和と安全など8つを優先分野と決めた。また、目標の間にはトレードオフが発生することもある。代表的なものはエネルギーへのアクセス(目標7)と気候変動問題(目標13)だろう。ASEANなどでは増大するエネルギー需要に対しては再エネだけでは不足であり、化石燃料も必要なのが現実なのだ。最適なバランスを決めるのは国民だ。

SDGsが普及したことで、国別のランキングや企業評価なども出てきているが、総合評価は企業の信用リスクや人事評価と同じくそもそも難しい。わかりやすさを求めすぎると、本来の意図が伝わらないのではないかと、違和感を覚えたり、ランキングに一喜一憂する姿を想像して苦笑いする研究者もいる。

もう一つは価値観の違いだ。OECDのツールは統計データになじまないものは政策の有無をゼロか1かで表すなどの工夫により達成度を数値化する。数値化すれば客観的に比較できる。

しかし、どの指標を使うか、どこを満点とするか、複数のデータの重み付けなどには主観が入っている。特に具体的目標が世界共通で良いかは意見が分かれる。

最も先進的なEUの基準を成功事例として世界共通の目標とすべき、という主張もあれば、ASEANの実情にあわせた現実的、達成可能な目標とすべき、との考えもある。各国の取り組みをランキングにしたNPOやOECDなど評価する団体で違った結果になるのは自然なことだ。

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フワッとした議論になりがちなのが、民間への期待だ。長期のビジネス展開の参考に、事業継続のための行動原則に――といった現場での活用が進んでいる。前身の国連開発目標(MDGs)とは異なり、SDGsは先進国、また企業での活用も目指しており、その狙いは実現されつつある。

しかし、貧困など企業が取り組むには大きすぎ、また公共性が強くて十分な収益が期待できないテーマもある。

企業が全部の目標で貢献を求められるとしたら、無理がある。企業の貢献は「本業を通じて」が基本であり、企業が本業を一生懸命やれば貢献につながるルールを作るのが政府の仕事だろう。先進国も途上国も、また企業も参加して、と言うのは美しい構図だが、それぞれの役割を改めて考える必要がある。

政策に、そしてビジネスに――。世界各地で、それぞれにあった形でSDGsの活用はさらに進みそうだ。そのためのカギは多様性ではないだろうか。アジアのように、国によって経済や社会、豊かさの考えが異なるところもある。こうした現状を踏まえて、日本は多様性の重さを発信してはどうだろうか。

[日経産業新聞2019年11月15日付]

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