DX、経営トップが関与を
新風シリコンバレー 米NSVウルフ・キャピタルマネージングパートナー 校條浩氏

コラム(ビジネス)
2019/11/12付
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最近の日本企業の間で「デジタルトランスフォーメーション」を略したDXという言葉がはやっているようだ。「IT(情報技術)の普及により、企業・社会・人々の生活の形が根本的に変革していく」ことである。2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマンという教授が命名したらしいが、命名が誰であれ、日本企業には今度こそ本気でデジタル時代に則した事業変革を断行し、再成長してほしい。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、ベンチャーキャピタル及びファンド・オブ・ファンズを組成。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、ベンチャーキャピタル及びファンド・オブ・ファンズを組成。

DXの歴史は古い。成功のために経緯はよく理解すべきだ。1990年ごろ、既に「戦略的情報システム(SIS)が企業を変える」とシステム会社が喧伝(けんでん)していたが、その頃の実態はシステムを売るためのマーケティングキャンペーンに近かった。

それに対し、私は「戦略的な情報システムを考える前に、まず経営陣が情報システムを念頭に置いた経営戦略を示すべきだ」と主張した。だが経営者には声が届かなかった。事業経営者は情報システムが事業の根幹と認識していなかったからだ。だから外部システム会社に情報システム設計から開発まで丸投げしており、デジタル化によって事業そのものが変革する、という大きな波に経営トップは鈍感だったと言える。

95年のネット商用化で、デジタル化による企業変革のビジョンが鮮明になった。レジス・マッケンナなどデジタル時代のオピニオンリーダーたちは、インターネットの普及により顧客が「リアルタイム」のパラダイムにシフトし、企業がそれに対応して変革しなくてはならない、と説いた。その頃に前後してアマゾンなど「GAFA」が創業し、デジタル時代の新市場を席巻している。

それでも日本の状況は変わらなかった。最高経営責任者(CEO)・経営企画部と最高情報責任者(CIO)・情報システム部門の間に壁があり、経営戦略の根幹に情報システムが入ることはなかった。CIOの仕事は既存の経営モデルを踏襲したまま効率化のためにシステムを導入、改良することであった。一方の受注側のシステム会社も、ユーザー企業の経営モデルや体制を温存したままに情報システムを設計した。

それが今、DXの掛け声とともにやっと日本企業が動き出したのだ。DXの鍵である経営トップが、真剣に課題に取り組む姿勢を持つようになった。

そこで、先進的スタートアップが集まるシリコンバレーに人を送る企業が増えてきた。最近の調査では、シリコンバレーに拠点を置く海外企業の中で日本企業の数が首位になった。ただ多くの駐在員は、日本の業務現場で困っている問題を解決できるような技術を探しているという。これではDXには行き着かない。

スタートアップからは既存事業の改善のための技術の調達だけではなく、ITが前提のデジタル社会だからこそ立ち上がる事業モデルを学習し、そこから示唆を得ることが何よりも大事だ。だから担当者には経営の視点が求められる。DXで経営トップの関与が重要であるゆえんである。

[日経産業新聞2019年11月12日付]

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