衝突乗り越え社内改革
SmartTimes 社会起業大学理事長 田中勇一氏

コラム(ビジネス)
2019/11/1付
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「ふだんの当たり前に感謝できる幸せを広げたい」。大塚実業の代表取締役社長である大塚雅之氏は思いを込めて、こう語る。同社は創業47年になる「ろ過布」のメーカー。ろ過布は日本酒の製造工程でのもろみ搾り、食用油やプリンター用のトナー原料の抽出、工場排水や上下水の処理といった広い範囲で活用されている。同社は大量生産が中心の大手企業があまり進出しない多品種少量製産の市場で、社員の創意工夫を生かして成功している。

1992年住友銀行(現三井住友銀行)入社。新銀行東京とイオン銀行設立に参画後、キャリア支援のリソウルを設立。2010年に社会起業大学を設立。公益資本主義推進協議会副会長。

1992年住友銀行(現三井住友銀行)入社。新銀行東京とイオン銀行設立に参画後、キャリア支援のリソウルを設立。2010年に社会起業大学を設立。公益資本主義推進協議会副会長。

大塚氏は社員教育に余念がない。創意工夫は簡単には生まれないからだ。幅広い知識や技能に加えて顧客の側に立ち、自ら考え行動する力を身につけさせなければならない。そのため仕事の意義、やりがいを日々伝えるだけでなく、客先に定期的に社員を連れて貢献の実感を持たせている。

そこでのコミュニケーションは必ずしも良い意見だけではないが、それが社員をやる気にさせる。最近は離職者をほぼ出さない順風な経営を続けているが、数年前までは違っていた。

創業者の父はニッチな事業領域で地道な経営を心掛けていたが、持ち合わせた強いリーダーシップで、いつしかワンマン経営に至るようになっていた。

父の会社に就職した彼は抜群の営業成績を上げており、当時の風土にさほど違和感はなかったが、結婚して2人の子供を授かってから変わった。「大事な子供たちが豊かに平和に暮らせる社会をつくることこそが重要だ。会社は利益だけでなく社会に貢献しなければならない」と考えるようになる。同時に世界、特に途上国での水の問題にも関心を持ち、その課題解決も模索するようになった。

父の病気をきっかけに社長となった大塚氏だが、ビジョンは描けたものの経営は素人だ。そんなとき、公益を優先する資本主義を推進する経営者団体を設立した大久保秀夫氏(フォーバル会長)の講演会に出席し、これこそ自分が目指すべき経営だと確信する。

その後は大久保氏が主宰する勉強会などに積極的に参加し、すべてのステークホルダーを幸せにする経営を徹底的に学んだ。会社で実践を始めるが、大きな変革には衝突がつきものだ。多くの社員が拒絶反応を示し、なかには会議中に会社を飛び出して戻ってこない熟練社員もいたという。

それでも粘り強く語り続け、家族のような絆を持った組織をつくりあげた。さらには世界の水質基準を改善するため、進出を計画しているベトナムから高度人材を積極的に受け入れて育成を始めた。

将来の目標は、液体処理に関する世界的なコンサルタントになることだという。ふだん当たり前のようにある水の大事さに気づいたからだ。

まさしく公益資本主義に根ざした経営者としてSDGsを実践する大塚氏の今後の活躍に期待したい。

[日経産業新聞2019年11月1日付]

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