春秋

2019/10/31付
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鉄道や自動車が発達していなかったころの郵便は、集配の拠点から拠点へと、人力で荷を運ぶ「逓送」が重労働だった。17~19キログラムの郵便物を担ぎ、ジョギング並みの速度を求められたという。2リットル入りペットボトル9本に相当する重さだから苦労のほどがしのばれる。

▼東京・墨田の郵政博物館が、郵便に携わる人たちを描いた錦絵やポスターなどの作品展を開いている。伝えているのは真摯な仕事ぶりだ。極め付きは大正期に、猛吹雪のなか遭難死した北海道の逓送人、吉良平治郎の例だろう。自らの外とうで郵便物がぬれないようにし、帰らぬ人に。「責任」と題した紙芝居にもなった。

▼おりしも日本郵政グループでは、顧客軽視の不正な生命保険販売が問題になっている。先人たちが黙っていられずに現れ出たようである。虚偽の説明で保険料を二重に徴収したり、不要な契約を結ばせたりして営業成績をかさ上げしていた。吉良が実態を知ったら何を思うか。利用者の信頼を裏切る行為に言葉もあるまい。

▼いまのチラシにあたる明治のころの「引札(ひきふだ)」も目に留まった。この広告には目新しいものが描かれ、普及し始めた郵便の集配員に、七福神の恵比寿(えびす)や大黒天がふんしている。吉報を届ける配達員は福の神にみえたのだろう。保険契約者に被害を与えた営業員との落差は大きい。郵政グループ社員にこそ見てほしい企画展だ。

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