春秋

2019/10/24付
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おもむろに料理を口に運び、目を中空に据え、ウンウンとうなずき――感極まったように「おいしい!」。東海林さだおさんがかつて、食べ物エッセー「丸かじり」シリーズで、グルメ番組に出てくるタレントを冷やかしていた。インターネットの影もない時代である。

▼何を食べても「おいしい!」しか言えなかった昔の芸能人に比べれば、当節の「食レポ」は素人だってすごい。「旬の松茸(まつたけ)と名残の鱧(はも)が出合った奇跡のひと椀(わん)にうっとり」とか「きちんと仕事をした鮪(まぐろ)と、メルローのタンニンとのマリアージュを堪能しました」とか。こんな書き込みが飲食店情報サイトにはあふれている。

▼なんだか大げさだなあ……。と思うが昨今、店選びをこの手のサイトに頼らぬ人は少ないだろう。記述をあれこれ読み、点数を確認し、予約を入れる仕儀となる。だから店側は評価を上げたくて必死だ。サイト運営会社に会費を払えばポイントが上がるという指摘もある。こんど公正取引委員会は実態調査を始めたという。

▼1億総グルメ評論家時代。公取委には真相をよく調べてもらうとして、みんな、あまりネットに振り回されないのも大事だろう。言葉は増えたのに、結局、へんに褒めるか貶(けな)すか。かの「おいしい!」時代と、案外、似ているかもしれない。ユーモアたっぷり、風刺もきいた東海林さんみたいな批評が少ないのがグヤジイ。

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