春秋 - 日本経済新聞
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春秋

寄席の伝統芸のひとつに「紙切り」がある。客席の注文に応じ、練達の技でハサミを操り、ある情景をものの見事に切り抜く。「相合い傘」「除夜の鐘」など、しっとりした題材が昔ながらの定番だ。が、最近の流行や、時事ネタにも即興で対応するのだから舌を巻く。

▼この世界の名人といえば林家正楽さんだ。今月上旬のこと。客席の女性から「ハカ」と声がかかった。墓ではない。ラグビー世界最強のニュージーランド代表・オールブラックスが試合前に披露する民族舞踊である。ゴールポストを遠景に、ポーズを決める屈強な男たちを迷いなく切り抜いた。鮮やか。もちろん大喝采だ。

▼週末ごとのワールドカップ日本代表の躍動に列島は沸いている。きょうは、準々決勝・南アフリカ戦だ。うれしいのは、日本の快進撃だけではない。他国チームや外国人観客への日本の温かいおもてなしと、それに対する共感の光景である。世知辛いご時世。互いの健闘をたたえあうこの球技の美質が、人びとの心を潤す。

▼台風19号で岩手県釜石市でのナミビア対カナダ戦が中止された。当地で泥掃除に汗を流したカナダ代表選手のツイートに泣けた。「(多くの謝辞に接し)カナダ人であることをどれほど誇らしく感じたか」。敗退したが真の勇者だ。正楽さんに「ノーサイド」を注文してみよう。今大会のどんな場面を切り取ってくれるか。

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