自由化が問う災害復旧体制 電力・ガス、進む新規参入
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コラム(ビジネス)
2019/10/4付
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9月に関東を直撃した台風15号は、千葉県を中心に90万件を超す停電をもたらした。長期化した停電は東京電力ホールディングス(HD)の被害把握の甘さをさらすとともに、電力・ガス自由化の進展に伴う、自然災害からの復旧のあり方も問うている。

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東電HDは停電復旧の見通しを何度も修正した(9月、千葉県南房総市)

東電HDは停電復旧の見通しを何度も修正した(9月、千葉県南房総市)

東電HDの送配電子会社、東京電力パワーグリッド(PG)は、台風が通過した翌日の9月10日、「11日中の復旧を目指す」と発表した。しかし、11日朝には東電PGの金子禎則社長が見通しを修正し、その後も何度も先送りした。

東電HDは「過去の経験から見通しを公表したが、現場の状況は倒木などによる被害が思った以上に大きかった」と説明する。

「明日、復旧するなら」と、被災した家にとどまった人もいただろう。非常用発電機を届けるなどの支援も初動が鈍ったかもしれない。しかし、停電の下で熱中症で亡くなる人も出た。情報開示の過失と批判されても仕方がない。

気になるのは、電力やガスの復旧見通しについて、前のめりの発表が今回に限らないことだ。

昨年9月6日未明、北海道で起きた地震では全域が停電するブラックアウトが起きた。6日午前8時すぎに東京で記者会見した世耕弘成経済産業相(当時)は「数時間以内の復旧を指示している」と語った。

経産省は後で発言は「数時間以内に復旧のめどをたてる」という意味だったと修正したが、主力の火力発電所が大きく損傷している状況での当初発言は住民に誤解を招いたと言わざるをえない。

別のケースでも「3日で復旧すると発表を求められた」「応援をもっと出せと迫られた」といった証言が、電力・ガス会社から聞こえてくる。

政府が国民生活の不便を一刻も早く解消し、事業者に早期復旧を求めるのは当然だ。厳しく迫ることも必要だろう。ただし、実態と乖離(かいり)した発表は混乱を拡大させるだけだ。

千葉の停電で東電HDは社内に対策本部を設置したが、会議には経産省の職員が加わったという。東電HDの最大株主は国だ。経産省が乗り込んでも不思議はないが、前のめりの発表に早期復旧を求める経産省への忖度(そんたく)はなかったか。

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自然災害による大規模停電からの復旧のあり方と、電力・ガスシステム改革の整合性についても課題を突きつけた。

電力システム改革は2020年4月、電力会社の発電や小売部門から送配電部門を独立させる発送電分離を実施し、改革は総仕上げを迎える。都市ガス改革は22年に、東京ガスや大阪ガス、東邦ガスの大手3社の製造・小売部門とパイプライン部門を分ける導管分離を予定する。

発送電分離は発電や小売りでの競争を促す一方、送配電部門の中立を確保する狙いだ。大手電力会社の送配電会社に地域独占を認める代わりに供給責任も負う。事故や停電などからの復旧も送配電会社の責任だ。

しかし、停電になった時、消費者がまず、契約する小売会社に電話するのは自然だ。今回、東電PGに連絡することを承知している消費者がどれだけいただろうか。

実際、東電の小売会社である東電エナジーパートナー(EP)には電話が殺到し、停電発生直後の夜間には、電話がつながる率が1~2割まで落ちたという。

発送電分離後は同じグループであっても、発電や小売部門と、送配電部門は情報や接触の厳格な遮断が求められる。ただし、国が定める電力取引の指針は非常災害時などの場合に限り、小売部門などが送配電部門に協力することを認めている。

東電グループの場合、東電EPに電話しても、音声ガイダンスに従って東電PGにつながるようになっている。問題は電力小売りに参加した新規事業者から電気を買う消費者だ。東京ガスやJXTGエネルギーによれば、停電に関する問い合わせは、東電PGにかけ直してもらうよう伝えざるをえなかった。

都市ガスはさらに複雑だ。導管分離後は各家庭の入り口までは東京ガスや大阪ガスの導管会社が責任を持つが、家庭内のコンロや給湯器などの消費機器は小売事業者が責任を持つ。つまり、ガス小売りに参入した電力会社や石油会社は、保安を大手ガス会社に委託している場合を除き、自らガス機器の周知や調査を受け持つ必要がある。

災害復旧も応分の責任を負う。18年6月に起きた大阪北部地震では、ガス復旧へ全国から2400人の応援が入った。その中には地元の関西電力のほかに、東電EPやニチガス、中部電力九州電力も加わった。

東京ガスは国が定める保安のガイドラインに沿って、新規参入者と非常時の復旧協力について覚書を交わしている。市場シェアに応じて要員の派遣を求める内容だ。

大阪北部地震の時ではまだ、電力や石油など新規参入者のシェアは小さかった。しかし、大阪ガスから新規事業者に切り替えた顧客は8月末時点で15%超、東京ガスから変更した顧客は約1割に膨らんでいる。

千葉の停電復旧では日本全国の電力会社から、のべ5千人、協力工事会社を含めると、のべ9千人超が応援に入った。仮にガスの復旧で数千人規模の応援が必要になった場合、電力や石油会社も数百人規模の派遣を求められる。

新規参入者にそれだけのガス保安技術者はいない。そのときどうするのか。大規模災害に備えた復旧体制を再検証する必要がある。

(編集委員 松尾博文)

[日経産業新聞2019年10月4日付]

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