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共創が生む成功物語

SmartTimes インターウォーズ社長 吉井信隆氏

豆からひける全自動コーヒーメーカーが話題になっている。ツインバード工業が開発した高級コーヒーメーカーで2018年の発売から好調な売れ行きだ。開発のきっかけは商品開発部の岡田剛さんの「自分だけの究極の一杯のコーヒーを自宅でゆったりとした時間に飲めたらどんなに幸せだろう」との思いだった。

1979年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。首都圏営業部長など経て95年にインキュベーション事業のインターウォーズを設立、社長に就く。日本ニュービジネス協議会連合会副会長。

16年に経営陣の後押しを得て、本物志向の全自動コーヒーメーカーの開発が始まる。開発コンセプトは「バリスタがいれる本格的なコーヒーの味を自宅で再現する」。しかし開発メンバー全員がコーヒーには素人で知識も技術もない。何をもっておいしいと言えるのか判断基準がなかった。

多方面から情報を収集し、東京・南千住の「カフェ・バッハ」が開店から50年たった今も愛され続ける名店だと知る。店主の田口護氏は自家焙煎の第一人者であり、バリスタも使う本格的な書籍を数多く出版する「コーヒー界のレジェンド」と呼ばれる人物だ。

岡田さんは田口氏を訪ね「本物の豆からひける全自動コーヒーメーカーを作りたいが、何をどうしたらいいのか分からない。お店で味わうコーヒーを自宅で楽しめたら、多くの人が幸せな気分になる」と熱意を伝えた。断られる覚悟をしていたがピュアな開発魂が田口氏に伝わり、協力を仰げることになった。

しかし商品開発は困難を極めた。田口氏の店に足しげく通い、店と変わらないプロセスで豆量や粒度、水量、湯温、蒸らし時間、ドリッパーリブの高さなど、すべての工程を正しい作法で一つひとつ丁寧に再現することに取り組んだ。

最大の難問はバリスタが湯を注ぐ技術の再現だった。6カ所から湯が出る仕組みをつくり、湯の出方を緻密に秒単位でコントロールする電気設計をした。湯がドリッパーリブに注がれるときに2センチメートルの隙間を空けて外から見えるようにもした。チームメンバーは夜中まで試行錯誤しテイスティングを重ね、店の味を忠実に再現することに挑戦した。そして透明感のあるまろやかなおいしさを、2年の歳月をかけて実現した。

他に類のない「豆からひける高級全自動コーヒーメーカー」の成功は、分析的戦略アプローチではない。開発リーダーがコーヒー界のレジェンドと出会ったことから始まる「共創の物語」だ。物語にはプロット(筋書き)がある。

ツインバード工業では開発が壁にぶつかったとき、ネットワークでつくる共創の思想が行動規範となっている。同社が本社を置く新潟県の燕三条には地域企業とのエコシステム(相互協力関係)があり、このネットワーク資源が開発の成功要因となった。

共創による開発物語には必ず人との出会いがあり、行動規範がスクリプト(脚本)になる。プロットとスクリプトで難題を解決していけば、成功に至る。

[日経産業新聞2019年10月4日付]

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