春秋

春秋
2019/9/28付
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東京は朝夕に秋の風を感じる季節である。日中、とりわけ日が差したときはまだまだ暑いので、その分こころよさが募るのかもしれない。もっとも、随分と違ったおもむきの秋の風も、この世にはある。「ものいえば 唇さむし」と芭蕉の句が伝えている、あれである。

▼作者が込めた意味からはいささか離れるらしいが、余計なことをいうと災いを招く、との趣旨に解するのが一般的だろう。言論に対する統制や抑圧の厳しい社会を表すときに使うこともある。そんな意味合いで最近、この句を思い浮かべた。愛知県で開催中の芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」をめぐる騒動である。

▼いささか経緯をおさらいすれば、問題となったのは同芸術祭の企画展「表現の不自由展・その後」である。元従軍慰安婦を象徴する「平和の少女像」などの展示に対して、抗議が殺到した。なかには放火をにおわすようなものもあったという。主催者は安全安心を確保するため、開幕から3日でひとまず同展をとりやめた。

▼こうした混乱を踏まえて文化庁は改めて審査し、同芸術祭に予定していた補助金を全額交付しない、と発表した。気になるのは、結果として脅迫が大きな効果を発揮する形になったことである。表現の自由をおびやかす言動を助長するのでは、との不安を拭えない。この国の「表現の不自由」ぶりが心配になる、秋である。

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