衛星情報、気候変動対策のカギ 共同利用ルール、多国間で
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

コラム(ビジネス)
2019/9/27付
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21世紀後半のゼロエミッションに向けて、再エネの拡大を図り、化石燃料の低炭素化のために二酸化炭素地下貯留(CCS)や様々な技術改良が進められている。しかし最も経済的な方法は省エネだ。設備などの省エネは随分進んでいる。

台風15号では倒木による停電が多かった

台風15号では倒木による停電が多かった

いまさら省エネかという反応もありそうだが、ビッグデータを活用したデジタル化は大きなポテンシャルを持ちながらも未開拓の分野だ。そのカギを握るのが衛星を活用した情報だ。

スマホでもおなじみの位置情報サービスは自動運転とカーシェアリングには欠かせない。シェアリング経済が進めば2050年には世界の新車の保有台数は60%程度に減るという分析もある。

走行距離が減るからエネルギー需要が減り、生産台数が減るから鉄やプラスチックなど素材需要も減る。鉄鉱石、石油など資源輸送も影響を受けるから波及は広範だ。

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気象衛星からの情報解析で日射量や雨量、風量などの正確な予測ができれば、変動する再エネ発電量の調整のための火力発電やエネルギー貯蔵の無駄も減らせる。洪水予防の事前放水の最適化で水力発電の発電量が実質的に増える。消費者の行動変化の予測を需給調整に織り込めばさらに効果的だ。デジタル革命は生産の効率化にとどまらず生産しないことによる省エネを目指す。

異常気象が日常的に発生するのが気候変動であり、重要課題の一つが防災・減災だ。正確な気象予測があれば、あらかじめ避難などの準備で被害を抑え、また天候回復後のスムーズな再開・復興を可能にする。

9月の台風15号の貴重な教訓は復旧の重要性であり、そのためには被害状況の確認が欠かせない。二酸化炭素(CO2)削減や気象災害対策など気候変動の対策に対し、衛星情報の活用の場所は広い。

広域を一度に把握し、また地上で観測する情報が不足気味の地域を得意とするのが衛星技術だから、日本国内以上に海外での需要がある。

ブラジルの農業の干ばつ対策、メコン川流域での洪水予測、アフリカのマラリア発生予測などに日本は協力している。日本政府が提案する「質の高いインフラ」でも位置情報や気象情報の活用を取り上げている。島しょ国の空港整備や都市計画に大きな脅威となっているハリケーンによる高潮対策を組み込めば日本の協力の目玉になるだろう。

日米欧を中心に情報の提供と国際的な共有、さらに利用と協力が進められている。米国の全地球測位システム(GPS)と日本の「みちびき」で位置情報の精度を向上させている。

日米欧に加えてインドや韓国、オーストラリアなども加わることで世界的な気象ネットワークを作っている。広範囲の情報を一網打尽に集めるのが衛星観測の強みだが、現地の固有の状況への対応へのきめ細かな対応が弱点だ。情報のアクセスなど現地との協力が欠かせない。

中国も積極的で急速にサービスを充実させてきている。位置情報サービスでは中国の「北斗」衛星の数は位置情報サービスの先駆者である米国のGPSの数を上回る。

気象衛星でも「CMACast」と呼ばれるシステムで太平洋から中央アフリカまでをカバーする。米国は北米や南米、EUはヨーロッパとアフリカ、日本は東アジアと西太平洋を中心に気象を観測しているので、中国が日本の「ひまわり」やEUのサービスが手薄な中央アジアやインドなどをカバーすれば観測網が充実する。

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しかし、気になるのは中国政府の宇宙版の一帯一路、宇宙情報回廊プロジェクト構想だ。

中国が主導し、発足させたアジア太平洋宇宙機構にはタイ、モンゴル、バングラデシュ、パキスタンなど8か国が加盟しており、この中国中心の宇宙協力の枠組みと一帯一路構想をリンクさせ、囲い込みを狙っていると言われている。

フィジーなど南太平洋諸国でも中国は活発であり、米国や日本、豪州など他国も対抗策を打ち出そうとしている。エスカレートすることになればせっかくの国際協力も停滞する。衛星の情報や技術は軍事面でも欠かせず、軍事利用の転用のリスクは常につきまとう。しかし、排出削減は世界共通の課題であり、気象災害の対策が遅れて被害が拡大すれば、地域紛争の引き金となり安全保障にも悪影響を及ぼす可能性がある。

だからこそ共同利用のルールを確立させ、現地の受け入れ態勢の整備、データ解析や蓄積、ソリューションの共同研究や開発支援、知財の保護による民間活力の活用などが必要だ。これを透明性の高い多国間の枠組みで実施していくことが望ましい。排除ではなく、全ての国の協力が成果を高めるカギとなる。

[日経産業新聞2019年9月27日付]

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