海洋プラ問題 核心の対策を 日本流貢献、科学的評価から
Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

コラム(ビジネス)
2019/9/20付
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9月11日に鳴り物入りで初入閣を果たした小泉進次郎環境相。新閣僚の就任会見で、海洋プラスチックごみ対策の推進が総理指示のひとつにあがったことに言及した。「この分野では日本が世界に売っていける」「日本にしかできない貢献がある」との発言もあった。

小泉環境相は新閣僚の就任会見で、海洋プラスチックごみ対策の推進を総理から指示されたことに言及した

小泉環境相は新閣僚の就任会見で、海洋プラスチックごみ対策の推進を総理から指示されたことに言及した

ただ、国内では脱プラスチック製ストロー推進、レジ袋有料化、会合などでのペットボトル飲料の提供自粛などの話題は相次ぐものの、議論が核心の部分に向かっていかないことが気がかりだ。

例えば、プラスチックストローが全体のプラスチック製品に占める割合はごくわずかである。従来のプラスチックストローの原料は主にポリプロピレンだか、そのポリプロピレンだけでも、用途は自動車部品や家電部品、包装フィルム、食品容器、キャップ、トレー、コンテナ、パレット、衣装箱、繊維、医療器具、日用品、ごみ容器などに及ぶ。

世界では、年間800万トンものプラスチックごみが海に流れこんでいると推測されるが、海洋ごみの約7割を占めるプラスチックごみが海の生物によって誤飲、誤食される問題は従来もたびたび指摘されてきた。

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いま改めて、海洋プラスチックごみ対策に関心が高まっているのは、大きさが5ミリメートル以下のマイクロプラスチックが、誤飲、誤食という形態にとどまらず、広範に海の生物の体内に摂取されている実態が明らかになってきたからである。

科学記事サイトである「Science Daily」が「マイクロプラスチックは、これまで認識されなかった汚染の脅威を提起するかもしれない」という記事を掲載したのが2007年11月。2008年9月には、米国ワシントン州立大学タコマ校で海洋におけるマイクロプラスチック破片をテーマに初の国際研究ワークショップが開催された。

それから10年あまりの歳月を経過しているものの、マイクロプラスチックの生成過程、生態系への影響、人間の健康に対するリスクの実態はまだ解明されていない点も多い。

国際自然保護連合が2017年に発表した報告書は、海に流れ出たプラスチックごみが外的要因(特に紫外線や波の影響)を受け、徐々に劣化、崩壊して、小さな細片状(5ミリメートル以下)になった二次マイクロプラスチックのほかにも、陸域から海域に放出される時点で既に小さな細片状になっている一次マイクロプラスチックの存在の大きさを指摘している。

報告書によれば、その量は年間150万トンと推計され、そのうち35%は合成繊維が洗濯などで小さく裁断され、下水などに混じって海に流れ出したもの、28%は合成ゴムや合成繊維を用いたタイヤが摩耗し、そのタイヤくずが海に流れ出したものだという。

したがって、議論を食品容器や包装材に限定するのではなく、ひろく海洋プラスチック汚染の原因を作っている産業セクターと汚染経路を分析・特定して、その対策を講じることが核心なのである。

もうひとつ、日本国内でやや誤解があるのは、海洋プラスチックごみ対策をめぐる世界の潮流は必ずしもプラスチック製品の使用抑制、脱プラスチック社会の構築をゴールにしているわけではないという点だ。

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2018年、G7シャルルボワ・サミットで提案された「海洋プラスチック憲章」でも、「2030年までに100%のプラスチックが、再使用可能、リサイクル可能又は実行可能な代替品が存在しない場合には、熱回収可能となるよう産業界と協力する」という項目がまず先頭に掲げられている。

この年の1月に欧州連合の行政執行機関である欧州委員会が発出した「欧州プラスチック戦略」では、「プラスチックは経済活動において重要な素材であり、今日の近代的な生活はそれなしには考えられない」と明記された。

そのうえで、「プラスチック製品及びプラスチックを含む製品が、耐久性、再利用及び高品質なリサイクルを拡大するよう設計されるべきだ」という主張を掲げているのだ。欧州委員会は、プラスチックを環境に害があるものとして必ずしも敵視しているわけではない。加えて「欧州は分別及びリサイクル関連機器及び技術のリーダーシップをとる」という意思表明もなされている。

「欧州のプラスチックリサイクル能力は、2030年までに4倍に拡充・近代化(2015年比)され、域内で20万人分の新規雇用を生む」という見通しが盛り込まれていることからも分かるように、これは環境政策であると同時に経済政策、産業政策であり、さらにこうしたリサイクルシステムを途上国に「売っていく」という輸出戦略、成長戦略でもあるのだ。

海洋プラスチックごみ問題への関心の高まりや、使い捨て(ワンウエー)プラスチック製品の代表としてプラスチックストローに矛先が向く事態が、欧州の政策の追い風となっている側面は否定できない。

一方、「日本の廃プラスチックの有効利用率は2017年で86%と高い水準に達している。これは世界でもトップクラスで、この技術や経験を世界に売り込んでいけるはず」という声が国内からはよくあがる。

しかし、その実態は58%が熱回収によるもので、欧州が推進する再使用やリサイクルには当たらないことを認識する必要がある。

「日本にしかできない貢献がある」と胸を張るなら、欧州流の再使用やリサイクルと日本流の熱回収のおのおのの手法の環境負荷を、製品の資源採取から原材料製造、加工、組み立て、製品使用、さらに廃棄にいたるまでの全過程(ライフサイクル)を統合して、科学的、定量的、客観的に評価することが急務である。そのうえで世界に向けて情報発信して初めて、説得力や競争力が生まれるということを肝に銘じたい。

[日経産業新聞2019年9月20日付]

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