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日本を自己実現大国に

SmartTimes 久米繊維工業相談役 久米信行氏

人工知能(AI)の進化で未来はどう動くのか。各界の識者22人が10分ずつ語り合う「AI未来フェス」に参加した。普通に考えれば、未来は恐ろしく思える。中国の超監視社会の進展を見ると、ジョージ・オーウェルのSF小説「1984年」を思い出す。

アリババでの買い物などから「人間の価値」が点数化されて評価される社会は、ネットワークを監視するビッグブラザーが大衆をひそかに管理するディストピアの到来を予感させる。

もちろんAIは便利な未来に不可欠だ。電子政府やスマートグリッド、自動運転など超効率化社会の実現は秒読みだ。だがゼロベースの技術革新は、むしろエストニアのような小国やインフラを今から整備する発展途上国に有利だ。日本のように政官財の既得権益が絡み合った社会では、革新に乗り遅れるだろう。

こうした悲観的な見通しが多い中で、私はあえて楽観的な未来を提言したい。題して「AI時代は勝手に○○協会の理想郷」だ。AIに多くの仕事が代替される中、人がやるべき仕事は「勝手に○○協会」だ。これは私の定義では「○○を熱愛する人が誰に頼まれることなく、報酬ももらわず、自分が好きな場所で○○を好きなように創造・紹介する自由人」を指す。

私は地元の東京都墨田区や訪問先の魅力を発見してSNSで紹介する「勝手に観光協会」を続けているが、どんな仕事よりも楽しい。こういうと「好きなことだけで飯が食えるか」とお叱りを受けるだろうが、その発想自体が20世紀の工業化社会の産物だ。

AIの進化で職種を問わず半数以上が失業しかねない。雇用対策で仕事を分け合うワークシェアリングを導入せざるを得ないだろう。自由時間が増える結果、週の半分は今までの稼ぐ仕事「ライスワーク」をしながら、残りで自分がやりたかった仕事「ライフワーク」を始める人が増える。

勤め人としての収入は減るのでベーシックインカムなど、一定の支援が必要になるだろう。一方で家計支出も減る。シェアエコノミーが進み、家や車などを所有せずに共有すれば安価に利用できる。サブスクリプションサービスの普及で映画や音楽などがわずかな定額で楽しめるようになる。公園や美術館などで安価に「自分磨き」もできる。

SNSを活用し、審美眼や技術の成果を格安の出版や音楽配信につなげるのも楽しい。ライスワークにすることは難しくても「勝手に○○協会」モードでライフワークにするなら簡単だ。世界のどこかの100人とつながれば大きな生きがいが得られる。

1人当たり所得を競うより「多様な自己実現を楽しむ人が世界一多い国」を目指せばいい。おそらく自然に恵まれた地方から、自己実現の楽園が現れるだろう。近い将来、そんな楽園に私も引っ越したい。

[日経産業新聞2019年9月20日付]

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