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春秋

数年前の初秋の頃だった。東京のJR中央線・西荻窪駅近くの居酒屋で、外国人の熟年の紳士が、ひとり静かに杯を傾けていた。「おねえさん、お酒を人肌で」。端正な日本語だ。酒のみとして相当、年季が入っている。あんなふうになりたいものだと深く感じ入った。

▼後日、その紳士を早稲田大学のキャンパスで見かけた。はたと気づく。戦後日本の大衆文化史などを研究するマイク・モラスキーさんではないか。ニッポンの都市文化としての赤ちょうちんの機能などを考察した著書「呑(の)めば、都」の筆者である。新涼の季節になると、燗(かん)酒をたしなむなんとも粋な身ぶりが思い出される。

▼ギンナン、サトイモ、秋サケ、ベニズワイガニ……。各紙の地方版を読むと、それぞれのお国の秋の味覚の出荷が日々、報じられている。不漁が伝えられる生サンマの塩焼きも、小ぶりではあるが、居酒屋で供されるようになった。瑞穂(みずほ)の国はいよいよ、みのりの時期を迎える。旬をさかなに一献傾けたくなる夜長である。

▼冷やから55度(飛び切り燗)まで。料理に合わせおいしく飲める適温の幅の広さは日本酒が群を抜く。「ただ過ぎに過ぐるもの 帆かけたる舟。人の齢(よわい)。春、夏、秋、冬」とは枕草子の一節。きょうは早じまいし、移ろう時をめでつつ「人肌で……」と、モラスキー先生をまねてみようか。お月さまだって許してくれよう。

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