春秋 - 日本経済新聞
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春秋

台風は「一目連(いちもくれん)」の仕業だという言い伝えがある。三重県桑名市の多度大社にまつられている暴風の神だ。この神様が外出すると、通り道には嵐が吹き荒れるという。「日本妖怪大事典」をひもとけば、水木しげるさん描く一目連は人々をにらみつける巨大な目である。

▼千葉県などに深刻な被害をもたらした台風15号は一目連のような恐ろしい目をともない、意思があるみたいに特異なコースを進んだ。三浦半島の先端をかすめ、東京湾に入りこんで最奥まで到達、上陸したのである。進路の右側の危険半円に巻き込まれた房総では、電柱倒壊などによる停電がいまも広い範囲で続いている。

▼一目連がほんのすこし西寄りの道をたどったら、どうなっていただろう。数十キロずれただけで東京は大打撃を受け、電気も水も途絶えていたかもしれない。多くの人が家を失っていたかもしれない。あの暴風が住宅密集地に吹き荒れたらどんな出来事を引き起こすか……。こんどの被災地が千葉だったのは偶然にすぎない。

▼地球温暖化の影響で、台風が強大化しやすくなっているという。今回のケースは想定外だったとの釈明も聞こえる。それにしてもこの対処の遅さは、台風と闘ってきた国にあるまじきことだ。来年の夏から秋には東京五輪・パラリンピックも開かれる。一目連の神に、どうかお静かにと願いたてまつるしかないのだろうか。

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