社会課題に関心「将来世代」 SDGs強化が人材確保に
Earth新潮流 日経ESG編集部 相馬隆宏

コラム(ビジネス)
2019/9/13付
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今年8月末、英国から大西洋をヨットで渡り米国・ニューヨークに到着した1人の少女が注目を集めた。彼女の名前はグレタ・トゥンベリさん。スウェーデンの女子高生で、約1年前から学校を休み、気候変動対策を強化するよう世界に訴えている。国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議やダボス会議でも演説し、今月末にニューヨークで開催される気候行動サミットにも登壇する予定だ。

学校を休んで気候変動対策の強化を訴えるグレタ・トゥンベリさん(左手前)。今月下旬にニューヨークの気候行動サミットで演説する=ロイター

学校を休んで気候変動対策の強化を訴えるグレタ・トゥンベリさん(左手前)。今月下旬にニューヨークの気候行動サミットで演説する=ロイター

気候変動を本気で解決しようと情熱を注ぐのは、環境活動家であるグレタさんだからと思うかもしれない。だがそうではない。多くの若者がグレタさんに共感し、世界で100万人以上が「学校ストライキ」に参加したとされる。

日本の若者も例外ではない。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インコーポレイテッド・ジャパンで採用に携わる小田原浩パートナーは、「ソーシャルメディアで情報をリアルタイムに入手し、世の中で何が起きているかにすごく興味を持っている。日本はもちろん海外の紛争や貧困など、環境や社会に関して問題意識を持っている」と言う。

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実際、事業を通じて環境や社会課題を解決しようと考えている若手社員は大手企業にもいる。例えば、丸井グループで投資調査部リーダーを務める入社3年目の矢野夏樹さんは、「将来世代のことを考えると、ESG(環境・社会・ガバナンス)やサステナビリティーに取り組んでいる方が格好いい。本業で社会の課題を解決したいと心から思う」と話す。

人事部長の羽生典弘氏は、「当社の採用試験を受ける若者は、みんなの役に立ちたい、社会課題を解決したいという人が多い」と言う。

一般に1981~96年生まれのミレニアル世代や、それ以降に生まれたZ世代と呼ばれる若者は、環境や社会課題に関心が高いといわれる。

こうした若者は、インターネットが当たり前の環境で育ち、SNS(交流サイト)で日常的にコミュニケーションを取ることから「デジタルネーティブ」と称される。同様に、SDGs(持続可能な開発目標)の目標にあるような環境や社会課題を自分事として捉えている「SDGsネーティブ」でもある。

SDGsネーティブの若者は、今後、企業にとって重要な存在になるだろう。労働、消費、投資の面で社会経済の中心になるからだ。

ユーグレナは、18歳以下の若者を対象にCFO(最高未来責任者)を募集

ユーグレナは、18歳以下の若者を対象にCFO(最高未来責任者)を募集

そうした中、ソーシャルスタートアップの草分けとして知られるユーグレナが今年8月に発表した内容が大きな話題となった。

「CFO募集 ただし、18歳以下」――。新聞広告や動画投稿サイトを使って、経営陣に18歳以下の若者を迎え入れると宣言したのだ。CFOといっても、ユーグレナが募集するのは「Chief Financial Officer(最高財務責任者)」ではなく、「Chief Future Officer(最高未来責任者)」だ。

同社は気候変動や貧困問題を解決し、未来を良くするために設立した企業である。2030年や2050年に社会の中心的な存在となる若者が議論に参加していないのはおかしいと考え、CFOの募集に踏み切った。

永田暁彦副社長は、「今の世の中には、自分じゃない誰かが解決してくれると考えている人が多い。未来の当事者である若者は社会課題を自分事化している。CFOには企業の都合を考えずに、我々をうならせる意見を言ってほしい」と期待する。

持続的成長にESGの取り組みが欠かせなくなりつつある今、環境や社会課題を自分事化している若者を確保できるかどうかが企業の競争力を左右する。国内では、有効求人倍率が1973年以来の高水準で推移しており、人材の確保に苦労している企業は多い。

労働力人口が減り、人材の獲得競争はこれからますます激しくなる。ESGの取り組みを強化することは、ESG投資家の評価を高めるだけでなく、競争力の源泉である優秀な人材を確保するためにも必要だ。

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投資家も企業の人材戦略をより重視するようになっている。ニッセイアセットマネジメントチーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー上席運用部長の井口譲二氏は、「人材育成や良い人材の獲得は、企業戦略の達成や企業価値向上と関連性が深く、投資家にとっても重要事項となる」と話す。

そして「経験上、社会の期待に応えるような理念を掲げ、実践している企業ほど、社員はやりがいを感じ、より企業価値向上に努めるのではないか。この意味で、SDGsの考え方を経営戦略に取り入れていくことも重要となる」と指摘する。

ゴールドマン・サックス証券証券部門株式営業本部業務推進部長スチュワードシップ・コーポレートガバナンス担当の清水大吾ヴァイス・プレジデントは「株主や従業員と同じく、将来世代も企業にとって重要なステークホルダーだ。環境や社会課題に取り組むのは当然のことになってくる。将来世代を獲得するためには、社会にとって必要な企業であるかをいかに理解してもらうかに尽きる」と話す。

SDGsネーティブの若者にとって、2030年や2050年に想定される課題はまさに自分事であり、解決に取り組もうとするのはごく自然ななりゆきだ。

その頃にはもう自分はいないからといって課題を先送りする経営者の下に、若者は集まってこないだろう。企業にとって、環境や社会課題の解決に取り組むことは、課題解決能力に優れるイノベーション人材を呼び寄せることにもつながる。

[日経産業新聞2019年9月13日付]

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