福島第1廃炉の「終着点」は 選択肢示し幅広く議論を
Earth新潮流

2019/9/6付
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東京電力福島第1原子力発電所の廃炉はどのように「終着点」を迎えるのか。汚染水や放射性廃棄物は最終的にどこへ行くのか。溶け落ちた燃料(デブリ)の取り出し開始が近づくなか、地元でも関心が高まっている。数十年後の状態を想像するのは難しいが、今からどんな選択肢があるかを広くオープンに議論しておく必要がある。

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第4回福島第一廃炉国際フォーラムには約1300人が参加、約半数が県内からだった(8月4日、富岡町)

第4回福島第一廃炉国際フォーラムには約1300人が参加、約半数が県内からだった(8月4日、富岡町)

8月初め、原発にほど近い福島県富岡町で開いた「福島第一廃炉国際フォーラム」。地元高校生らも交えた「語り合う」セッションではテーマの一つに「未来」を掲げ、廃炉のゴール設定、そこへ至るプロセスなどについて意見を出し合った。廃炉の最終目標をどこに置くかという問題を正面から取り上げたのは、4度目となる今回のフォーラムが初めてだ。

数十年後のことをいま議論しても仕方ないと考える向きもあるが、高校生らにとっては家族を持ち地域の担い手として活躍している頃にあたる。廃炉が一段落した後の状態は、被災地をイノベーション拠点として生まれ変わらせ新産業を創出しようという政府構想の実現性とも絡む。

エイドリアン・シンパー英原子力廃止措置機関(NDA)戦略・技術担当理事は、廃炉作業の終着点を「物事の終わり」ではなく「次の計画への起点」と前向きにとらえるよう勧める。そのうえで「計画の中身次第で、どこまで原状回復に力を割くかが決まる」と指摘する。次期計画が曖昧なままだと、放射性廃棄物処理や除染に関する中長期的な目標を定めにくいという。

日本では「廃炉終了」が「更地化」と解釈されがちだ。しかし、何事もなかったかのような更地に戻すのが至難の業だというのは、多くの専門家の一致した見方だ。そもそも、1~3号機に大量に存在するデブリを本当にすべて取り出せるのかは未知数だ。原子炉直下の土壌中に放射性物質がどのように分布しているのかもわかっていない。

「更地にするかどうか決めるのはまったく時期尚早だ」とフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のヴァンサン・ゴルグ廃止措置・解体局長は指摘する。焦る必要はなく、廃炉の終着点について「実行できない約束をすべきではない」。

仏政府はかつて、南仏グルノーブルにあった原子炉の廃炉にあたり徹底的な除染を約束したが、コストが膨らみ達成できなかった苦い経験がある。目標を引き下げざるを得ず、国の研究所を新設することにした。

今でこそナノテクノロジーの一大拠点に生まれ変わったが、原子力関係者にとっては大きな誤算であり、二の舞いは避けてほしいという。ただ、だからといって何も決めずに成り行き任せで廃炉を進めればよいわけではない。

英国では、核兵器関連施設や火災を起こした原子炉などが集積するカンブリア州のセラフィールドで、120年がかりの大規模な廃炉・解体が進んでいる。極めて長期に及ぶため、「中間的な目標を設けて仕事の動機づけにもしている」(NDAのシンパー理事)。

並行して廃炉後の土地利用についても「地域住民らと対話の場をもつことが大切だ」と同理事は強調する。いきなりコンセンサスに到達するのは難しくても、選択肢が見えてくる。それらの利点や課題をじっくり検討するプロセスを踏めば、一方的に国や電力会社が決めたのとは違う解決策にたどりつける可能性が高いという。

米国の核関連施設の浄化や利用計画に携わるエネルギー省幹部は、日本でこうした地域対話が活発でないため「結論が先送りされがちだ」と語った。福島第1でたまり続ける浄化済みの汚染水の処理法で結論が出ないのを見て「少なくとも3年前くらいには住民らとの緊密な話し合いを始めているべきだったのに、なぜできなかったのか」と首をかしげる。

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年に1度の福島第一廃炉国際フォーラムが、国や東電の関係者と多くの人との貴重な意見交換の場であるのは間違いない。しかし「小さな対話をたくさんすることも大切」という声を、フォーラムに参加した複数の海外の専門家から聞いた。「まだ先のこと」と思わずに、今から議論を重ねておかないと将来の計画づくりは円滑に進まない可能性がある。

廃炉後を見越した計画づくりに関しては、学会の役割も大きい。日本原子力学会の廃炉検討委員会は廃炉で何をめざし、必要な技術や学術上の課題は何かなどをまとめた報告書を年内にも出す。更地化、部分利用、汚染された一部施設を残すなど、考え得るいくつかのケースごとに、ある程度の道筋を提示する。中間目標についても考え方を示す予定で、今後の議論に役立てる。

検討委の委員長を務める宮野広・法政大学客員教授は「今は内部を調べることが第一だ」と指摘する。「当面は推定に基づいて中間目標を設け、新たにわかったことがあれば技術開発と合わせて見直していけばよい」

福島第1原発の事故は原子力研究に対する信頼を失墜させたが、廃炉を着実に進めるには研究者の力は不可欠だ。国や東電の動きを待つのではなく、廃炉に関する情報を広く共有し、コンセンサスづくりに積極的に寄与する役割が求められている。

(編集委員 安藤淳)

[日経産業新聞2019年9月6日付]

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