アプリからの事前注文 省力化に加え単価アップも
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
スターバックスが日本でも事前注文サービスを始めた。筆者も早速試したが、アプリから近くの店舗で商品を選んで決済を済ませ、レジに並ぶ必要がなくすぐにピックアップできるのはとても快適な体験だった。ユーザーにとって持ち帰り業態は事前注文のメリットが大きい。

阪急阪神ホールディングスも人気パン店12店舗の商品をアプリから事前注文して持ち帰れる店舗を今秋、梅田駅に開設すると発表した。事前注文の流れはどんどん増えそうな勢いだ。
一方で渋谷には、着席したテーブルから注文できるコリーナというイタリアンレストランが誕生した。こちらは、飲食業界の慢性的な課題である人手不足の解消に貢献できる仕組みだ。
顧客はテーブルのQRコードを自分のスマートフォンで読み取り、スマホ上でメニューを見ながら注文できる。ひとつのテーブルに複数人いても、同じQRコードを読んでいれば自分のスマホでそれぞれ好きなものを注文できる。最後の会計の割り勘も自由に設定できる。
5月半ばの開業以来すでに1千人が利用、1万件以上の注文データが蓄積された。今後はどのメニューを頼んだ人が再来店しているかを分析し、メニュー開発につなげていくようだ。
2012年からオーダーシステムを開発し、この分野の先駆けでもあるショーケース・ギグ(東京・港)はすでに1200店舗以上にシステムを導入した。モバイルでのオーダー比率が20%を越える店舗も出ているという。
中でも注目すべきは、持ち帰りの際にアプリで事前注文した人の方が顧客単価が27%も高くなった店舗があったことだろう。新田剛史社長は「モバイルオーダーは自分のペースでじっくりメニューを選べるので、つい追加注文をしがちなのだろう」と分析する。確かに日本人は注文するレジで後ろに人が並んでいると気を遣い、急がなければと最低限の注文で済ませることが多いかもしれない。

さらに新田社長は「飲食店では注文と支払いがセットでないとキャッシュレス対応の効果は出ない」と語る。顧客自身が注文と決済の両方をすることで初めて大きな省人化効果が生み出されると指摘している。顧客にできることを任せることで、限られた人材を調理や高度な接客などより有効な場面に集中させられるというのだ。
まだまだ事前注文は少数派だが、これが普通になれば前日までの予約注文をしやすくなる。注文数が事前に確定すれば、フードロスの削減にもつながるだろう。
いずれは顧客情報管理(CRM)システムと連動し、当日キャンセルの防止やアレルギー対応、優良顧客への特別対応、人や混み具合に応じて価格を柔軟に変化させるダイナミックプライシングの導入なども可能になるだろう。
一人一人にあわせたプレミアムな提案をスマホの画面上で動画などでできれば、現在のメニューとは異なる提案が可能になる。さらに顧客単価を高めることにもつながるのではないだろうか。顧客と店舗との新しい関係性を作る第一歩としての事前注文方式の普及がますます期待される。
[日経MJ2019年9月6日付]
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