広がるプライバシー保護規制 ターゲティング広告急減も
先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)

2019/9/2付
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NIKKEI MJ

最近、インターネットの情報サイトを見て回ると、画面の下部分に「プライバシーとクッキー」といった用語を含むバナーが表示されることに気づく。初めて訪れるサイトで表示されることが多い。

プライバシーやクッキーの承認を求めるバナーが目立ちだした(筆者のブログサイト)

プライバシーやクッキーの承認を求めるバナーが目立ちだした(筆者のブログサイト)

この小さな表示の増加はネットという場が変化を始めている兆しだ。ネットメディアや電子商取引(EC)サイトの多くが、事業のあり方の見直しを大きく迫られるかもしれない。ネット広告の多くがこれまでのようには稼げなくなり、広告で収入を得てきたメディアにも影響が及ぶかもしれないからだ。

ビジネスパーソンならば、「GDPR(一般データ保護規則)」という、EUで昨年5月に施行された規制を聞いたことがあるだろう。利用者個人をめぐる情報(プライバシーデータ)の利用を明示したり、その利用について利用者に判断を求める規則だ。ネットや貿易など国境を越えて事業を手がけると、日本などEU域外でも影響を受ける。

これだけでも事業者にはインパクト大だが、もっと大きなうねりが次に控えている。来年にもEUで施行されると見られている「eプライバシー規則案」だ。GDPRよりも踏み込んでプライバシーデータの扱いを厳しく規制する。別名「クッキー法」とも呼ばれている。

クッキーはさまざまな情報サイトやECサイトを訪問した際の各種履歴を、データとして利用者のブラウザーに残す仕組みだ。サイトで登録の二度手間を省けたり前回の続きを表示したりと、利用者の使い勝手が増す。

一方で、個人の行動履歴を追跡でき、さまざまな嗜好、関心、支持政党などを判定する材料ともなる。利用者自身も気づいていない性癖さえ把握されかねない。クッキーのデータは非常にデリケートな個人情報といえる。

ECサイトである商品の情報を見た後、他のサイトでも同じ商品の広告を見かけるのを不思議に思う人もいるかもしれない。クッキーを活用して利用者を密かに追跡する仕組みがネット広告の基盤技術であることは、今や常識だ。

利用者一人ひとりの行動履歴に沿うことで高い効果を発揮するよう、広告は進化した。EU発の新たな規制は「ターゲティング広告」を行きすぎたものとみなし、プライバシー保護を強化する。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年からスマートニュース執行役員。18年7月からフェロー。東京都出身。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年からスマートニュース執行役員。18年7月からフェロー。東京都出身。

最初に述べたバナーはクッキーの利用を訪問者にあらかじめ断るもので、GDPRの影響といえる。さらにeプライバシー規則案では、このようなデリケートな情報の取り扱いに利用者の許諾を求める。クッキー利用を拒否した利用者であっても、事業者はサービスの提供を拒めないなど、より踏み込む。

「追跡」を拒否する利用者が多くなれば、ターゲティング広告が機能しなくなる。広告効果が落ちて収入が激減するだろうとの声も広がる。誤解してはいけないのは、このうねりが上記の2つの規制だけで生じているのではないことだ。世界でプライバシー情報保護や利用の規制が動き出している。アップルなどは、自らのプラットフォームで規制を厳格化している。

過度な追跡は利用者に不快感を与えるだけでなく、データ漏えいなどの被害にも結びつく。だが、広告がこのまま効果を失っては、多くのメディアが窮地に陥ってしまう。あるいは「サイトの利用は有料で」との流れが広がっていくのか。インターネットの見慣れた風景が変わっていくのは間違いなさそうだ。

[日経MJ2019年9月2日付]

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