2019年9月23日(月)

春秋

2019/8/18付
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画家、東山魁夷の代表作「道」は青森県の海辺での写生がもとになっている。現地に赴くと、太平洋から白い波が寄せるなか、近くには灯台があり、丘には松らしい木々も望める。だが、完成した絵は、露にぬれた草の間を白っぽい道が遠くへ伸びるシンプルな構図だ。

▼よく見ると、画面の奥で大きく曲がって続いているのもわかる。説明的な素材を省いて場所が特定されるのを避け、鑑賞する一人ひとりの思いに作品を委ねたのだろう。これからの進路を鼓舞されたり、また、過去の歩みをかえりみたり、見る者によってさまざまな感慨がわく。69年前に描かれているが、今も色あせない。

▼さて、不遇とされている一群の人たちに、新たな策は「道」を示すことができるか。就職氷河期世代の30代半ばから40代半ばのうち百万人を対象に、政府が本格的な就職支援に乗り出すという。人生をより充実させるために、仕事のスキルや収入の底上げは欠かせまい。社会保障や年金の基盤を固めることにもつながろう。

▼施策は職業訓練や実習が軸らしい。「この年で」の声も出そうだが、魁夷も名声を得るまでは相当なまわり道である。戦中は兵士として自爆訓練に明け暮れ、世に認められたのは40歳を過ぎていた。冒頭の作をこう語っている。「絶望と希望を織りまぜてはるかに続く一筋の道であった」。人生百年時代というじゃないか。

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