2019年9月17日(火)

春秋

春秋
2019/8/17付
保存
共有
印刷
その他

永井荷風は夏のいまごろ、きまって「曝書(ばくしょ)」にいそしんだ。本の虫干しのことである。断腸亭日乗をひもとくと「終日曝書」「晴。曝書。夜月よし」などと頻繁にこの言葉が出てくる。荷風にはおびただしい蔵書があったというから、なかなか壮観な虫干しだったろう。

▼もともとは和書を紙魚(しみ)の害から防ぐための習わしらしい。昨今まずこういう光景を見かけることはないが、一部の図書館では、所蔵する本の一斉点検のことを曝書と呼んでいるそうである。実際に干したり風に当てたりするわけではなく、記録と現物を1冊ずつチェックする作業だ。本を守るのに欠かせない業務だという。

▼図書館がこうした徹底管理で信頼を保っているのに、国が公文書の取り扱いをないがしろにしているのはどういうわけか。いっとき世間を騒がせた学校法人「森友学園」をめぐる決裁文書の改ざんは、真相がいまも闇のままだ。検察は再捜査でも不起訴処分とした。告発された元財務省などの面々は大いに安堵していよう。

▼荷風は「●(さんずいに墨)東綺譚」のなかで、曝書は「熟読した時分の事を回想し時勢と趣味との変遷を思い知る機会をつくる」と説いている。書物をたんに日にさらすだけでなく、それにまつわる記憶と定期的に向き合っていたわけだ。文書を人目にさらすのを避けるどころか、改変もいとわぬ人たちの想像の及ぶところではあるまい。

保存
共有
印刷
その他

関連キーワード

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。