コスト高でも再エネ電力 客にアピール、供給力に課題
Earth新潮流 日経ESG編集部 馬場未希

コラム(ビジネス)
2019/8/16付
保存
共有
印刷
その他

再エネを利用し、企業競争力を高める機会としようとする企業が現れた。それに応える電力会社の対応は十分ではないが、変化の兆しもある。

リコーは主力製品であるA3複合機の製造で使う電力を再生可能エネルギーで賄う。中国、タイ、そして日本の同社工場で2019年4月以降に製造した複合機の組み立て工場の電力需要37ギガワット時(3700万キロワット時)が対象になる。従来の電力料金と比べておおむね2割のコスト増とみられる。

□ □ □

リコージャパン岐阜支社の新社屋に設置された太陽光パネル

リコージャパン岐阜支社の新社屋に設置された太陽光パネル

リコーが高い電力を買うのは、一時的にはコスト増でも将来の収益拡大につながると考えるからだ。本業を成長させる「決め手」と捉えている。「再エネ電力を使うのは、顧客から選ばれる製品を提供するビジネスチャンス(機会)をものにするため」とサステナビリティ推進本部の阿部哲嗣社会環境室長は話す。

顧客であるドイツ大手企業が昨年タイ工場を監査に訪れた。「二酸化炭素(CO2)削減率は」「中期の温暖化ガス削減目標は」との問いに答え、評価を受けた。

電力需要を再エネ100%で賄うように求められたわけではない。とはいえ顧客が複合機が製造される時のCO2排出に関心を持ち、高い水準の取り組みを求めるのを目の当たりにし、他社に先駆けて再エネで製品を作れば競争力になると判断した。

同社は自社拠点で2030年までに使用電力量の少なくとも30%、2050年までに100%を再エネにする目標を掲げている。A3複合機工場への導入はその一歩だ。事業活動の電力需要の100%を再エネで賄う企業の国際イニシアチブ「RE100」には日本から初めて参加した。

阿部室長は「再エネを使う目的はRE100をいち早く達成することではない」と強調する。省エネ・脱炭素型の製品・サービスの販促に生かし、収益拡大につなげることだ。

A3複合機の他にも象徴的な例がある。グループの国内販売会社リコージャパンの岐阜支社は3月、新社屋に移転した。

太陽光発電システムや蓄電装置を導入した。建屋は断熱性の高い建材などを採用し、照明・空調を自動制御して省エネを徹底し、4~6月の再エネ比率は43%に達した。この社屋はグループが提供する太陽光発電のO&M(運用・保守)サービスなどを顧客に紹介するショールームの役割を担う。

2015年のパリ協定の策定、2018年のIPCCによる「1.5度特別報告書」の発行を経て、気温上昇を「セ氏2度より十分低く、1.5度に近づける」までに気候変動対策を強化する機運が、欧州を中心に高まりつつある。

日本企業に対しても、欧州のESG投資家や顧客、市場、NGOによる環境や社会への配慮、ガバナンスを強化する要請が強まった。経営者も選ばれるための気候変動対策の必要を肌で感じている。

太陽インキ製造の生産に再エネ電力を供給する水上太陽光発電所

太陽インキ製造の生産に再エネ電力を供給する水上太陽光発電所

RE100に参加する米アップルは2018年、世界の自社施設で使用電力量の100%を再エネ電力に切り替えたと発表した。そのアップルが今、力を入れるのが部品・部材の供給先を含むサプライチェーンにおける電力消費の再エネ転換だ。既にイビデン、太陽インキ製造、日本電産がアップル向け供給品の生産を再エネ電力100%に切り替える取り組みに着手した。

2度や1.5度に見合う気候変動対策は、決して省エネだけで成し得るものではない。使うエネルギーの脱炭素化が必須だ。CO2排出ゼロの電力供給を担ってきた原子力発電所の利用率は日本や一部の国で大きく縮小するなか、気候変動対策の強化を迫られる企業にとり、再エネは現実的な選択肢となった。

ただ、日本企業が再エネ100%を一気に実現できない日本独自の課題がある。再エネ供給力の不足とそのコスト高だ。

「日本の電源構成における2030年の再エネ比率を50%にするため、政策を総動員してほしい」――。気候変動対策に取り組む「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」に参加してRE100に取り組む企業が声を上げた。

この20社は将来、再エネ電力100%への切り替えを目指す。6月、電力会社や政府に対し再エネ供給力拡大と送電網などの課題への対処を求め提言を発表した。

国が掲げる2030年度の再エネ比率見通しは22~24%。これを2倍以上に引き上げる要請だ。提言はほかに国内の再エネの発電コストが火力発電や原発などよりも割高で、調達する選択肢も限られていると指摘した。

需要に応えるように供給側も、再エネ電力メニューを用意し始めている。

□ □ □

東京電力エナジーパートナーは2017年3月、水力発電のみを切り出した電力メニューの取り扱いを始めた。グループ154カ所の水力設備を生かす。他の大手電力も同様のメニューを提供している。

今後、期待されるのが、再エネ電力固定価格買い取り制度(FIT)の発電設備と再エネ価値を取引する「証書」などを組み合わせた電力メニューだ。自然電力(福岡市)のFIT電力と証書を組み合わせたメニューを採用した企業の4割以上で、大手電力会社と比べて電気代が安くなったという。一般に、再エネ電力の単価は大手電力会社の従来単価の1.2倍が相場だ。

だがこうした事例はごく一部。再エネ利用をビジネスチャンスや企業価値向上につなげ、競争力を高めたい需要側企業の声に、電力業界や政府は真剣に耳を傾けるべきだ。

[日経産業新聞2019年8月16日付]

「日経産業新聞」をお手元のデバイスで!

 スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できるようになりました。最初の1カ月間無料でご利用いただけます。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]